宮本から君への映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
「宮本の行動に関して後半はただ唖然としてた」(プレス)と原作の凄みを語る真利子監督。その手になる映画版も、終盤で暴力が?然を超え涙と笑いと呆然へと至る。観客をそこまで辛抱させる演出力は「イエロー・キッド」「ディストラクション・ベイビーズ」のパンチドランク状態、苦痛の果ての爽快感の差し出し方で証明ずみだが、今回の絶叫芝居の畳みかけは、重低音を効かせた音楽と拮抗する不条理なまでの寡黙さあってこそ目を撃つ映画の身体性の美を殺す方に働いてしまった気がする。
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編集者、ライター
佐野亨
真利子哲也の単独脚本だったTVシリーズと異なり、共同脚本に港岳彦が参加している点に注目。原作のもっともハードな展開を映画化するにあたり、このタッグは大いに奏功し、新井英樹作品の特色である日常空間が突如として禍々しい場所に変わる瞬間がゾッとする緊迫感と嫌悪感をともなって現出した(それだけに性暴力シーンは鑑賞に注意が必要だ)。激情の底に繊細さをしのばせた池松壮亮と蒼井優に大拍手。ピエール瀧、佐藤二朗ら現代の怪優たちも一段上の本気度で応えている。
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詩人、映画監督
福間健二
冒頭の音楽の入れ方からして説明的。演技も、いまっぽさの一方で力みすぎの芝居が入る。池松壮亮も蒼井優も果敢に汚れ、バクハツ的な人間味へと健闘する。それは認めるが、正念場の、非常階段の決闘を終盤におくためか、時間が行ったり来たりする。わかった成り行きをなぞる構成ではないか。真利子監督、共同脚本の港岳彦。ダサいほどの、必死の、なりふりかまわぬ奮闘にこそ人間の実があるという通俗哲学以上の何を拠りどころにしたのだろう。出会うべき本当の敵を見逃している。
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