作兵衛さんと日本を掘るの映画専門家レビュー一覧

作兵衛さんと日本を掘る

2011年、日本初のユネスコ世界記憶遺産となった絵や日記697点を残した炭坑画家・山本作兵衛に迫るドキュメンタリー。炭坑夫だった彼が60代半ばを過ぎて本格的に絵筆を握り、その絵さながらに働いた元女坑夫や関係者の証言を通じ、日本の過去と現在、未来を掘る。監督は「三池 終わらない炭鉱の物語」の熊谷博子。朗読を元NHKアナウンンサーの青木裕子、ナレーションを元フジテレビアナウンサーの山川建夫が務める。
  • 映画評論家

    北川れい子

    むろん、顔が眼目の映画ではないのだが、山本作兵衛が描く炭鉱労働者の顔は、男はみな高倉健似で、女は母親も娘も山田五十鈴系。目はどちらも黒々と力強い。今回、熊谷監督は、先行のドキュ「坑道の記憶~炭坑絵師・山本作兵衛~」を一歩踏み込んだ形で、山田五十鈴似に描かれていたヤマの女たちの実態を検証し、現代へとつなげる。そういえば三池炭鉱の?末を記録した「三池 終わらない炭鉱の物語」も、メインにいたのは妻たちだった。多彩な証言者たちのことばも貴重な力作だ。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    本作監督の過去作「三池 終わらない炭鉱の物語」と繋がるのはもちろんだが、山本作兵衛という特異な画家を紹介することがその画の色鮮やかな物語性を伴って、観る者に強く訴えかける。その“物語”において重要な真実はルポやドキュメンタリー以上に伝わってきた。私は本作が見せる作兵衛氏の炭鉱労働画によって、身体や生命に危険のある過酷な労働とは、労働者各人の自己保存の本能に労働の質を抱き合わせる究極かつ最低の自己責任論だと気づかされた。この問題は現在にも続く。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    葬送の翌夏、母の郷では各戸で“盆踊り”の会場を設けるという慣わしがあった。夏の夜になると僕が〈炭坑節〉を思い出すのはそのためだ。幼少期から耳にしていたからか、〈炭坑節〉が延々と流れることに違和感を覚えることはなかったのだが、筑豊を舞台にした本作を観て、僕はその理由を初めて悟ったのである。親族に対する単なる鎮魂ではないということ。炭鉱で命を失った人たちの労働の上に我々の生活があるということ。「炭鉱は日本の縮図」という作兵衛の言葉が重くのしかかる。

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