この星は、私の星じゃないの映画専門家レビュー一覧
この星は、私の星じゃない
日本のウーマン・リブ運動の伝説的なリーダー・田中美津のドキュメンタリー。1970年代初頭からその著書が多くの女性の共感を呼んだ彼女は、75歳になった今は鍼灸師として治療にあたりながら辺野古に通っている。彼女を3年間追い、その魂の遍歴に迫る。監督は、NHK・Eテレ特集シリーズ『日本人は何をめざしてきたのか 未来への選択』の吉峯美和。
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映画評論家
川口敦子
「ウーマンリブ運動のカリスマ的存在」田中美津の「見えない部分」を追う監督は「フェミニズムとはこういうもの」と敬遠している人にこそ見て欲しいとチラシに綴っていて、まさにそのターゲットだと身を硬くして臨んだのだが、田中の裡に見出した「明るさ、おおらかさの奥にある強さ、切なさ、孤独」「膝を抱えて泣いている少女」が自分の中にもいるという監督の映画が掬うカリスマの透明な脆さのようなもの、それを共感や敬愛の念に溺れない映画の距離ある眼差しが息づかせている。
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編集者、ライター
佐野亨
田中美津さんのことばに引き込まれるように画面を凝視していると、沖縄の場面から急激に画面の密度もことばの密度も落ちてしまう。嬉野京子さんの写真をきっかけに沖縄が田中さんにとって自身の生き方を問い直す重要な場所となったことは間違いなかろうが、90分弱の映画でその「切実さ」を描き切るのはそもそも無理があったか、あるいは作り手が田中さんと沖縄の関係性を咀嚼できていないか。むしろ今回は本郷や鍼灸の話に焦点を絞って掘り下げたほうがよかったのでは。
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詩人、映画監督
福間健二
田中美津は、人に対して、諦めていない。臆さない。かわいい人。声を聞いているだけで飽きない。なかなかできないことだが、七十代半ばで死への到達を恐れずに思う。いわゆる活動以上に治療家として受けとめてきたものを核とする疲労。それが姿に出るときは祈る人になっている。その現在をこんなふうに記録した。文句なしかもしれないが、映画としては、幼児体験、沖縄との関わり方、息子への思いなどの独特さと危うさが、焦点を結ばない。吉峯監督、もっと対話をしてほしかった。
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