幸福路のチーの映画専門家レビュー一覧

幸福路のチー

東京アニメアワードフェスティバル2018長編グランプリを受賞した台湾アニメーション。台湾から米国に渡り成功を収めたチーは、祖母の訃報を聞き、故郷である台北郊外の幸福路に帰る。そこで幼いころの思い出とともに自分を見つめ直すと、ある決断を下す。監督は、本作が初のアニメ監督作品となるソン・シンイン。声の出演は、「薄氷の殺人」のグイ・ルンメイ、「海角七号 君想う、国境の南」監督・脚本のウェイ・ダーション。
  • 映画評論家

    小野寺系

    内容は高畑監督の「おもひでぽろぽろ」に近いが、ややもするとそれ以上に主人公の心情や、社会に生きる女性の実感を映し出し得ている秀作。ジブリの後継ともいえる作品が突如台湾から登場し、ここまでの品質で作品を作れたことにも驚いたが、話を聞くと、台湾で下請けを行っていたベテランのアニメーターたちが使い物にならず、監督が新たに新人のスタッフを探したとのこと。アニメ文化の積み上げより、情熱とセンスでここまでのものに仕上げられるという事実に感動。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    1975年生まれでアメリカ在住の台湾女性を主人公にしたこの映画は、アニメの特質を生かして、話が幼少時代と現在を自在に行き来するも、郷愁のみに流れてないところが◎。蒋介石総統死去や戒厳令解除や初の民選総統誕生といった政治から、台湾大地震といった災害など、その時どきの出来事に主人公の成長を絡ませて、ファンタジーの中にしっかりした芯を形成する。そこに見える中国と米国の間で国の立場を模索する台湾。台湾初の長篇アニメだそうだが、世界的な視野を感じる。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    激動のさなかにある台湾を舞台に、悩みながら大人になってゆく一人の女性の人生を厳しくも優しく見つめた良作。完全に悪い人間は出てこないし、完全にいい人間も出てこない。みんなそれぞれダメなところがあり、いいところもあって、人間くさい。人は思うようには生きられない。幸福は甘いばかりじゃないけれど、それでも幸福を求め生きてゆくのが人生を与えられし者の宿命なのだと思わされる。主人公チーが自分と同じ1975年生まれということもあり、己の人生と重ねて涙した。

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