エリカ38の映画専門家レビュー一覧
エリカ38
故・樹木希林が企画、実際の事件をモチーフに、60歳を過ぎていながら38歳と偽り大金を詐取した女を通し、女の本性を炙り出した人間ドラマ。聡子は投資詐欺をはたらく愛人・平澤の裏切りを知り彼と手を切り、自らの話術と色香で大金を巻き上げて豪遊する。エリカと名乗り欲望のままに生きる聡子を浅田美代子が、ドラマ『時間ですよ』での共演以来浅田と長年親しくしてきた樹木希林が聡子の母親を演じる。監督は、第40回モントリオール世界映画祭ワールド・ドキュメンタリー部門最優秀作品賞、2017年日本映画批評家大賞ドキュメンタリー賞に輝いた「健さん」を手がけた日比遊一。第11回沖縄国際映画祭特別招待作品。
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映画評論家
北川れい子
せめて浅田美代子をもう少しキレイに撮ってほしかった。そして浅田本人ももう少し38歳を意識した“張り”のある演技をしてほしかった。2年前に実際に起きた詐欺事件がベースの“何が彼女をそうさせたか”。が、被害者ふう加害者という中途半端な主人公像が、浅田美代子の及び腰の演技で更に曖昧となり、ただ人騒がせな女を表面的になぞっているだけ。主人公の家庭環境や高校時代のエピソードも取ってつけたように薄っぺら。樹木希林さんの、贔屓の引き倒しのような企画作品だ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
本作自体がまるで一個の女系犯罪であることがすごい。聞けば本作中でも一徹な演技者の遺言としてその姿を刻む樹木希林が根本のアイディアを出したという。それは内田裕也が主演や企画者としていくつかの男でしかないものがやらかす犯罪の映画を遺したことへの絶妙な一発の後出しジャンケンだ。樹木希林の期待に充分応えて熱演した主演浅田美代子とともに裕也的ワールドに、あたしらはこんなふう、と返した。それは自称38歳の女詐欺師60歳のファックのようにド迫力で美しい。
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映画評論家
松崎健夫
エリカに騙された人々の証言を取材する記者。彼の立場は観客の視点を代弁している。その謎解き的な構成は「市民ケーン」と同様の構成を想起させるものだ。ひとつのフレームの中に、ふたつの情報を映り込ませることで、表裏のメタファーとなるスタンダードサイズを基本とした画面構成。また、暗部でゆらめく?燭の炎やスローモーションを用いることで、登場人物の内面を映像に反映させている。意図された画作りは浅田美代子が演じるエリカという人物の不透明さを際立たせているのだ。
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