メモリーズ・オブ・サマーの映画専門家レビュー一覧
メモリーズ・オブ・サマー
1970年代のポーランドを舞台に、夏休みを過ごす12歳の少年の姿を通して、思春期特有の心の揺れ動きを描き出す。父が外国に出稼ぎ中の少年ピョトレックは、母と2人で仲良く夏休みを過ごしていた。だが、母が毎晩のように家を空けるようになり……。監督はポーランド映画界期待の新星アダム・グジンスキ。日本初紹介となる本作が長編第2作に当たる。出演は、本作が俳優デビューとなるマックス・ヤスチシェンプスキ。
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ライター
石村加奈
雨上がりの路面に映る、母子の後ろ姿。儚いファーストシーンに魅せられる。アダム・シコラのカメラワークは抒情的だ(一家で出かけた遊園地のシーンも素晴らしい)。冒頭で気になった少年の唇の傷は、心の傷の表層に過ぎぬ。澄んだ瞳で見つめ続けた、母親の裏切りや大人のずるさに絶望し、目を背けていく様が淡々と、しかし切々と描かれていく。ラストシーンの少年の眼差し、彼が出した確固たる結論に、胸を衝かれる。石切場の池やアンナ・ヤンタルの流行歌等も作品世界を豊かに彩る。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
幼年期の終わり、ママとの揺籃的関係の終わりをこれほど馬鹿正直に撮った例を知らない。日本では寺山修司、木下惠介あたりが思い浮かぶが、本作ほど率直ではなかった。揺籃的、口唇的を通り越し、近親相姦愛からの裏切りと嫉妬なのだ。共産主義体制真っ只中の七〇年代ポーランド。暑さを感じさせない冷感症的で乾いた夏のありようが物悲しい。ママに棄てられた少年は、幻滅・汚穢の共有を通じてママと同一的存在たらんとする。冒頭の踏切シーンがすでにそれを直截に物語る。
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脚本家
北里宇一郎
母が母でなくなり女となった。それを止めようとしても、どうしていいかわからない。12才男子のもがきがひりひり胸を打って。ポーランドの夏、田舎町。あふれかえる緑のみずみずしさがかえって母と子の孤独と哀しみを際立たせる。北欧の夏は短い。それが少年期のはかなさと、母が女であることにしがみついた、その一瞬の炎の燃え尽きを匂わせる。佳品。だけどもう一歩踏み込んで、早すぎる通過儀礼を経た主人公が、この先女性に対してどう向き合うか。その絶望の果ての夢想が見たかった。
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