世界の涯ての鼓動の映画専門家レビュー一覧
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批評家、映像作家
金子遊
ここ数本、ヴェンダースの作品に何か彼らしくなさを感じて、やや不満に思うことが多かった。むろん原作があり、製作には資本の問題もあって、作家が常に自分に適した企画に出会うことは難しいが……。ソマリアに潜入するイギリスの諜報員と、深海探査をする海洋生物学者の女性がバカンス先で恋におちるという非現実的な物語。しかし、世界各地で起きているテロの問題、そして人類を含む地球上に暮らす生命の問題を、ひと組の男女の恋愛話のなかに落とし込んだ先鋭性は素晴らしい。
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映画評論家
きさらぎ尚
休暇中のホテルで出会い、運命的な恋に落ちた男と女が、南ソマリアと北極圏の海底へと、それぞれの任地に赴く。ストーリーの軸ははっきりしているのに、涯てに隔てられた二人の鼓動が伝わってこない。テロリストから人々の命を救う任務を負った諜報員と、深海探査で生命の起源を解明する生物数学者。地上と海底から相手を思う深い気持ちは解らなくはないのだが、主演の二人のケミストリーがミスマッチか。ノルマンディーの風景など映像が美しいが、服の上から背中を掻いているような。
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映画系文筆業
奈々村久生
海辺でおもむろに服を脱ぎ荒波に入っていくヴィキャンデルと、案の定それに翻弄されるマカヴォイ。恋に落ちる瞬間というのはこういうことだ。急速に惹かれ合った二人はその後それぞれの目的地へ向かい、拘束されたジェームズとは音信不通に。相手がスパイでも連絡の取れない恋人同士が置かれる状況は同じ。恋愛の濃度が時間に比例するとは限らない……というのはドラマチックにすぎるかもしれないが、物理的な接触を超えたつながりを信じたくもなるロケーションの交錯が美しい。
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