もみの家の映画専門家レビュー一覧
-
フリーライター
須永貴子
主人公のぼんやりとした輪郭が、一年を通して次第に明瞭になっていく変化を、南沙良が体現する。嫌いだと思いこんでいた赤いトマトをひと齧りして、そのおいしさにハッとする瞬間。茜色に染まる砺波平野を、展望台から一緒に見下ろした、寮のOBへの淡い恋心を隠しきれない表情。彼女の体温の僅かな上がり下がりを、自然の色彩とともに切り取る映像により、トマトの味や恋の記憶が蘇る。きちんと生活を送ることで生を実感する主人公を通して、観客の五感が研ぎ澄まされる。
-
脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
不登校になった少女が、「もみの家」という施設に預けられ、成長していく素朴な話。映画は嫌な奴の存在でわりと盛り上がるものだが、これには一人として嫌な奴は出てこない。が、静かに盛り上がっていく。心を閉ざしていた少女が米作りに加わり、家事をし、仲間たちとも心を通わせ、収穫祭で獅子舞を演じる。無表情な彼女が、徐々に表情を獲得していく。その姿を丹念に追っているだけなのに、なぜこうも心が震えるんだろうか。混じり気なくピュアであろう心で作られた一つの結晶である。
-
映画評論家
吉田広明
不登校の少女が、問題児が集まる家で農作業やらを経て復帰するまで。不登校に至る描写が薄く、学校内での自分の立ち位置が見つからない程度。なぜ不登校にという点を突き詰めていないから、学校に行けるようになった変化も説得的なものにならず、彼女の様々な経験も、予め決定されたハッピーエンドへの布石にしか見えない。それぞれの問題児の個性すら描き分けられていないし皆いい人で葛藤がないし、いろんな意味で温すぎるミクロコスモス。監督も脚本も岩井俊二門下だそうな。
1 -
3件表示/全3件