ニューヨーク 最高の訳あり物件の映画専門家レビュー一覧

ニューヨーク 最高の訳あり物件

「ハンナ・アーレント」のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督が、初めてコメディ・ドラマに挑んだ意欲作。モデルからデザイナーに転身を図ろうとするジェイドだったが、突然、夫ニックから離婚を告げられる。傷心の中、夫の前妻マリアが部屋に転がり込み……。出演は「ヘラクレス」のイングリッド・ボルゾ・ベルダル、「帰ってきたヒトラー」のカッチャ・リーマン、「雪の轍」のハルク・ビルギナー。第30回東京国際映画祭にて『さようなら、ニック』のタイトルで上映。
  • ライター

    石村加奈

    夫の写真を抱きしめて、ソファで泣き寝入りした夜をやり過ごしても、新しい朝が来れば、エレベーターの金銀きらめく輝きにも負けず着飾り、職場に向かうジェイド。何て知的!と感心したのは束の間……。ジェイドに追い打ちをかけるべく突如現れた前妻マリアの長閑な暮らしぶりに、すわ真打ち登場か!? と思うも……。それぞれの弱点を突くイタい展開からの大団円を爽快とはとても思えず。マリアの「彼が変わると思った?」という問いに、率直にジェイドが答える、夕食のシーンが好きだった。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    米国で活躍したドイツ人のコメディ映画作家というと、E・ルビッチやB・ワイルダーなど錚々たる偉人の名前が浮かぶ。ユダヤ側に立ってホロコースト再総括を試みた「ハンナ・アーレント」で健在ぶりを示したM・フォン・トロッタが、偉大な先達に倣ってNY流喜劇に挑んだものの、最高度の熟達と洗練が必要とされるこの分野に手を出すには、この監督は生真面目に過ぎる。映画は時間を追うごとに手詰まり感を露呈し、苦しくなっていった。やはり彼女にはシリアスな映画を求めたい。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    マンハッタンの高級マンションに元妻と愛人が同居して。おまけに性格も正反対。当然、波乱も騒動も。このコメディ、ただちにルビッチ、ワイルダー、N・サイモンの名が浮かぶ。これを「ハンナ・アーレント」の監督が手がけた。やはり少し重い。だけどソフィスティケイテッド料理に、丸ごとごろんとじゃが芋や人参が入った不思議な味わいがあって。金儲けとか名声とか成功とか、そんなアメリカの夢に釘を刺し、それがどうしたというトロッタ監督の心意気が丸ごとごろんじゃないのかと。

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