ペトラは静かに対峙するの映画専門家レビュー一覧
ペトラは静かに対峙する
カタルーニャの乾いた大地で繰り広げられる、人間の闇をえぐるサスペンス。作品制作のため、著名な彫刻家ジャウメの邸宅を訪れた画家ペトラ。だが彼女の真の目的はジャウメが自分の父かどうかを確かめることだった。そんな中、一家の家政婦が謎の自殺を遂げる。出演は「マジカル・ガール」のバルバラ・レニー、「愛を綴る女」のアレックス・ブレンデミュール、77歳にして本作で演技デビューを果たしたジョアン・ボテイ、「私が、生きる肌」のマリサ・パレデス。撮影監督は「幸福なラザロ」のエレーヌ・ルヴァール。監督・脚本は『ソリチュード:孤独のかけら』のハイメ・ロサレス。
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ライター
石村加奈
ヒロイン・ペトラに、父親が誰かを明かさぬまま死んだ母は、昔からずっと娘の顔が好きだったと笑顔を見せた。血でも性格でもなく、顔が好きだという親<人としての愛すなわち真実。最終章で、鏡の中の自分の顔をまじまじと見つめていたペトラにも、漸くその愛は伝わったのだろう(この時遂に、表題の境地に至る)。偽りの連鎖で繋がった悲劇は、希望の結末を迎える。ここまで徹底的な悪キャラ=ジャウマは久しぶりで痛快。ジャウマ役のJ・ボテイ、77歳の俳優デビュー作とは驚きだ。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
信用のおける登場人物をどうやら一人も見出せぬ本作で、観客は何を信じたらよいのか。最も興味深い人物は諸悪の根源たるジャウマなる売れっ子美術作家だが、彼とて周囲からの俗物扱いを覆す奥の手を持ち合わせているわけではない。イジワル根性が肥大化した領地で、アートが単なるスノビズムとして断罪されることによって、私たち観客は侮辱を受ける――私たち自身の美への愛が、依存が。時系列を狂わせた脚本の工夫も、思わせぶりなカメラワークもその屈辱感を晴らしはしない。
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脚本家。51年生まれ
北里宇一郎
第2章からはじまって、3章、1章と映画は時制を交錯させて展開。どこかパズルを解いていくような。演出はしっかりしていて見ごたえがある。スペインの田園地帯、その乾いた空気。ミステリー的雰囲気も良くて。だけどこの物語、まともに語れば、よくある話とも思える。結末まで分かって、もう一章、前に返したとき、これまで見てきた人物像なり事象がまったく違って見えた。そこに人間の謎が隠されていた。そんな“決め”技がほしかった。なんか話法だけで安心している映画の気が。
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