ベル・カント とらわれのアリアの映画専門家レビュー一覧
ベル・カント とらわれのアリア
在ペルー日本大使公邸占拠事件から着想を得たアン・パチェットの小説を、「アバウト・ア・ボーイ」のポール・ワイツ監督が映画化。オペラ歌手のコンサートを催す南米某国副大統領邸をテロリストが占拠。やがてテロリストと人質との間に思わぬ交流が生まれる。高名故に人質として捕らわれる世界的オペラ歌手ロクサーヌ・コスを「アリスのままで」でアカデミー賞主演女優賞を獲得したジュリアン・ムーアが、実業家のホソカワを「GODZILLA ゴジラ」シリーズの渡辺謙が、通訳のゲンを「自由が丘で」の加瀬亮が演じる。また、グラミー賞を受賞したオペラ界のスター歌手ルネ・フレミングが歌の吹替を担当している。
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アメリカ文学者、映画評論
畑中佳樹
グッドストーリー、バットノースタイルというべきか、ノースタイル、バットグッドストーリーというべきか微妙。南米某国の要人邸が過激派に占拠され、オペラ歌手、各界セレブ、日本人社長と通訳らが人質にとられて籠城するブニュエルの「皆殺しの天使」状態が、いつしか敵味方入り乱れての微笑ましい多言語多文化教室へ(なんだか映画の撮影現場のよう)。この展開をさほど芸のない平凡な語り口で真っ正直に描く。映画評論家ではない友人には安心してお薦めできる。
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ライター
石村加奈
実業家ホソカワ(渡辺謙)の通訳ゲン(加瀬亮)とテロリストの少女カルメン(マリア・メルセデス・コロイ)の切実な恋に比べ、ホソカワと歌姫ロクサーヌ(ジュリアン・ムーア)の関係をどう受けとめればよいか。ホソカワ(出発前の息子とのやりとりも含め、もやっとする)やロクサーヌの背景描写が何とも思わせぶりな分、南米で展開されるストーリーに集中できない。魅力的なはずの主人公が、テロリストと人質の心を芸術が繋いでゆく美しい物語の不協和音になろうとはもったいない。
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映像ディレクター/映画監督
佐々木誠
争い事の多くは「話せば分かる」と思っている。言語が違うことでできる境界線は、どうするか。本作は「ペルー日本大使公邸占拠事件」を基にしている。ゲリラ、国籍が違う人質たち、複数の言語が飛び交うその現場はまるで“世界の縮図”で、加瀬亮の「通訳」が狂言回し的役割を担い、ムーア演じる「オペラ歌手」の歌声から利害を超えた関係が生まれ、そこは徐々に理想郷のような空間へと変化していく。実際の現場も同様だったはずで、その終結は単なる悲劇ではない余韻を残す。
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