隣の影の映画専門家レビュー一覧

隣の影

第90回アカデミー賞外国語映画賞アイスランド代表に選出された、ブラックユーモアを交えたサスペンス。閑静な住宅地で暮らす老夫婦が隣家の中年夫婦から庭の木がポーチに影を落としているとクレームを受けたのをきっかけに、両家の対立は次第に激化していく。監督・脚本は、2012年にバラエティ誌により最も期待される10人のヨーロッパの監督に選ばれたハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018国際コンペティション部門監督賞を受賞(映画祭タイトル「あの木が邪魔で」)。
  • ライター

    石村加奈

    一本の木の影は、隣にいる人のもたらす影響を示唆しているのだろう。無気力な夫(アトリ)が妻にもたらす不調、失踪したアトリの兄がもたらす母(インガ)の狂気と父の無関心、生まれてこない我が子がもたらす、隣家夫婦の不安定。そばにいるだけで侵食されてしまう、時に煩わしい他者の存在といかに接するべきか? 大木を切るように、単純にはいかないのだと、グロテスクなラストシーンでインガが教えてくれるが、大人のトラブルに巻き込まれた、子供やペットはたまったものではない。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    国連が2012年から発表し始めた「世界幸福度ランキング」は、北欧諸国が毎年上位を独占する。本作の製作国アイスランドの最新順位は4位。しかし社会保障や自由度、緑地面積などの数値で割り出されたこのランキングほど胡散臭いものはない。本作がサディスティックにえぐり出す不寛容社会の陰湿さをもって、ソレ見タコトカと騒ぐのも大人げない行為だが、ゴミひとつ落ちていない気味悪い画面の隅々を眺める時、私たち観客は自身の薄汚れた内面をそこに見出すことになるのだ。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    隣人同士がいがみ合い、仕返しがエスカレートして最後はとんでもない状況に。なんてお話はN・マクラレンの短篇「隣人」ってのが凄くて。こちらはちくちく陰険型の展開。いわば北欧の白夜の雰囲気。気になるのは片方の家族の息子。女房から見捨てられたこのオッサンが、報復戦争に巻き込まれて次第に凶暴化もせず、逆に周囲の人々の憎悪を煽ることもせず。ただただ憐れな存在のまんま。なぜこんな人物を設定したかが不可解で。この作り手、犬と猫のアイデアで安心しちゃったのかしら。

1 - 3件表示/全3件