蟹の惑星の映画専門家レビュー一覧

蟹の惑星

    変わりゆく東京の現在を、人と自然から捉えたドキュメンタリー。多摩川河口の干潟に生息する様々な種類の蟹に接近。その営みを見つめながら、地球や月など宇宙とも結びついていることを解き明かし、さらには人間や震災が与えた現実の問題までも浮き彫りにする。監督・製作・撮影・編集は「流 ながれ」の村上浩康。
    • 評論家

      上野昻志

      多摩川の河口付近の干潟に生息する蟹と、それを十数年、観察・研究してきた吉田唯義さんを撮ったドキュメンタリーだが、実に楽しい。まず、蟹の種類の多さに目を見張る。また蟹のセンサーが目にあって、ふさがれると動きがとれなくなるとか、種類によって巣穴の形状が違うとか、脱皮や交尾の様子など、まさに蟹の惑星探訪記を見るよう。同時に、最近蟹の種類が減ったのは、干潟の表土が削られたためで、それが東日本大震災時に起きた東京湾の津波によるかもしれぬという話に我に返る。

    • 映画評論家

      上島春彦

      「東京干潟プロジェクト」と名づけられた連作の一本。もう一本の「東京干潟」は多摩川河口にシジミを獲って暮らすあるホームレス老人の半生が主題になっている。こちらは定年後の人生を、干潟に生息する様々な蟹の観察に当てる老人が主役である。色んな人生があろうが、本来これらは合わせ技で一本、という感じじゃないかと思う。要するにこれだけでは弱い。とはいえ、超接写で捉えられた蟹のフォトジェニックな美しさとか、群生が大挙してシオを招く様子の面白さとか貴重な画面。

    • 映画評論

      吉田伊知郎

      多摩川河口の蟹の生態よりも、その研究を続ける在野の吉田氏の生態に魅せられる。柔らかな口ぶりで、好きが高じて今に至るという感じのまま地道にデータ集積を行っている姿がなんとも良い。孫娘が蟹の研究に接近しかけるが、長じて離れていった挿話を淡々と語る姿にも偏執的な研究を続ける人には珍しく穏やかな人柄が見えてくる。それゆえに震災後の異変を語る姿にもトンデモやこじつけではなく、そんなことがあるかも知れないと思わせる。羨ましくも幸福な〈かに道楽〉だ。

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