真実(2019)の映画専門家レビュー一覧

真実(2019)

「万引き家族」の是枝裕和監督が、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークといった俳優陣を迎え、全編フランスで撮影したドラマ。国民的大女優ファビエンヌによる自伝本をめぐり、母と娘の間に隠されたある“真実”が暴かれていく。共演は「8人の女たち」のリュディヴィーヌ・サニエ。撮影を「モーターサイクル・ダイアリーズ」のエリック・ゴーティエが担当する。
  • アメリカ文学者、映画評論

    畑中佳樹

    日本の監督がフランス映画を撮るというすわりの悪さ(仏語に訳される前の日本語台本が透けて見える)があって、初めはなかなか波長が合わなかったが、ケン・リュウのSF『母の記憶に』の撮影が始まると、つまり「演技」が主題化されると、いきなりピンと映画に芯が通って雑念が消えた。カトリーヌ・ドヌーヴの母とジュリエット・ビノシュの娘のうち、劇中劇の筋書と反響し合うように、母の方が聞き分けのない子供みたいに見えてくる。ドルリューの音楽が合いそう。

  • ライター

    石村加奈

    ファビエンヌの庭で暮らす老いたカメの、元夫にまつわるエピソード、彼女の現パートナーがハマっている、目にもおいしいイタリア料理、SF劇中劇で描かれる、不治の病を宣告された母が、娘との残された時間をだますためにとった選択。虚構が真実を軽やかに超えていく。魔女より何より、女優は本当の話なんかしないとうそぶくファビエンヌが断然チャーミングだ。タイトルを暗示させるような庭のいろとりどりの木々が、最後にはヒロインの成熟を感じさせるという不思議。美しい映画である。

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    これまで“虚実皮膜”な映画を多く手がけてきた是枝監督が「映画制作」を背景に、女優の虚と実の曖昧な“真の姿”を描く本作は、終始心地良いスリルがある、軽やかで普遍的な母娘の物語だった。ドヌーヴ演じる「国民的大スター」が綴った「自叙伝」、劇中劇『母の記憶に』の撮影をめぐるそれぞれの思惑と視点のズレ。その多重な入れ子構造が見事に目に見えない「真実」を炙り出している。本作の制作自体もその構造の一部として考えると、それを自分が撮影したかった、などと妄想した。

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