台湾、街かどの人形劇の映画専門家レビュー一覧
台湾、街かどの人形劇
台湾の人間国宝である布袋戯の人形遣い・陳錫煌を10年に渡り追ったドキュメンタリー。「戯夢人生」など候孝賢映画の名脇役にして布袋戯の大家・李天禄の長男・陳錫煌は、80歳を超えた今も海外からの弟子も受け入れるなどして布袋戯の継承に尽力している。監督は、「奇蹟的夏天」で金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した揚力州。第11回中国語ドキュメンタリー映画祭長編部門グランプリ受賞。
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アメリカ文学者、映画評論
畑中佳樹
台湾布袋戯(人形劇)の最後の輝きをとらえたドキュメンタリー。初めに人形遣いをめぐる映像がある。人々が様々な言語で喋り、そこへ最小限のナレーションが付く。やがてそれらは背景へ退き、代わりに手が、人形が、地の上の図として浮き上がり、人形が言葉のようなもの、生きている記号となって辺りを静まり返らせる。この時の背景がたとえようもなく美しい。黒子を消すのがアニメ、人形劇なら、皺くちゃの黒子にこそしみじみと見入ってしまうのが映画なのだろう。
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ライター
石村加奈
初めて見た、台湾の伝統芸能「布袋戯」の、繊細な人形の動きに魅了された。布袋戯についての知識が乏しいため、芸能の歴史と消滅の危機に瀕した現状、家を継ぐこととそれに伴う親子の葛藤など、盛りだくさんの内容がうまく消化できず、無念。エンドロール直前、正しく記録させようと「急げ」と言いながら何度も実演してみせた陳錫煌のエピソードからの「人なら磨きあげろ!」とロックな主題歌の勢いのよさに、肝にすべきはここだったのでは? とも。10年の間に、編集点がぼやけたか。
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映像ディレクター、映画監督
佐々木誠
冒頭から80歳を超えた陳錫煌の一挙手一投足に釘づけだった。台湾の伝統芸能「布袋戯」を代表する人形師で、人間国宝でもあるのにもかかわらず、彼は常に葛藤している。父であり師、伝説的な人形師・李天祿の死してなお圧倒的な存在、そして「布袋戯」の変化と衰退の実感が彼を焦らせ、行動へと突き動かす。その10年間の記録だが、老体に鞭打っているようには全く見えない。アーティストは死ぬまで己と対峙して青春するんだな、と思った。そして男は死ぬまで「息子」なんだな、と。
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