積むさおりの映画専門家レビュー一覧

積むさおり

平穏に暮らすある夫婦に忍びよる崩壊の危機を映し出すサスペンス。結婚5年目を迎えたバツイチ同士の夫婦。ある日、妻が奇妙な穴を覗いたことをきっかけに幸せな日々が一変。無神経な夫が発する生活音や笑い声など、些細な“音”が妻に様々な影響を及ぼしていく。出演は「冷たい熱帯魚」の黒沢あすか、「クライング フリー セックス」の木村圭作。監督・脚本・編集は「血を吸う粘土」の梅沢壮一。
  • ライター

    須永貴子

    どんなに愛し合って結婚しても、日常生活でのストレスが積み重なっていく。夫婦に限らず、同棲やルームシェアを経験した人なら誰もが知るベタ中のベタな感情を、特殊メイクアーティストでもある監督が独創的に映像化。夫の咀嚼音をはじめとする不快な生活音や、ストレスから難聴になった妻に聞こえる音世界など、巧みな音響設計に引き込まれ、妻の心境を擬似体験できる。ヤン・シュヴァンクマイエルのような悪夢的かつ寓話的なクライマックスでも監督の本領が発揮されている。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    結婚五年目の夫婦の、何事もなく平穏で、退屈でさえある日常生活。そこに何かが侵入してくる。夫が持ち帰ってくる会社の同僚の話や、それまでは気にもならなかった夫の咀嚼音。犬の散歩に出た妻は、公園の隅に積まれた枯枝の中に、奇妙な穴を見つけ、それから耳鳴りが始まる。それまで何気なく目にしてきた日常の様々が、異様なものに見えてくる。うまいなぁ。音が映像以上に語っている。夫婦の日常生活に潜む底知れない怖さが鮮やかに浮かびあがっている。が、もっと長尺で観たかった。

  • 映画評論家

    吉田広明

    中年夫婦、何事もきっちりした妻が、どこかガサツな夫の些細な仕草、その音が神経に障り、その苛立ちは、林の中で耳の穴によく似た穴を見つけたことで亢進してゆく。くぐもったり、いきなり高まったり、音の設計に注意が払われている。妻の不満が一瞬に爆発した程度で元通り。ささいな違和が、我々の無意識次元で抱く怖れにまで触れ、不意に深遠な所に連れ出される、わけではない。狙い自体が編集や特撮に凝る方にあったろうが、脚本の掘り下げに注力してもらいたかった。

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