ソワレの映画専門家レビュー一覧

ソワレ

小泉今日子らが設立した制作会社・新世界合同会社の第1回プロデュース作品。役者を目指して上京した岩松翔太は、演劇を教えるため、海辺の街の高齢者施設を訪れる。だが、ある事件をきっかけに、そこで出会った山下タカラと先の見えない逃避行に出ることに。出演は「楽園」の村上虹郎、「あの群青の向こうへ」の芋生悠。監督は、新世界合同会社の設立メンバーでもある外山文治(「燦燦 -さんさん-」)。
  • 映画評論家

    北川れい子

    おお、舞台が紀州・和歌山ということで、さりげなく(いや誰でも気付くか)安珍・清姫伝説を引用、そういう配慮を含め、かなり野心的でアクティブな脚本・演出だ。きつい状況設定で、若い男女をイッキに逃避行させるのも、ドラマ性に欠けるヤワな話ばかりの日本映画にウンザリしているこちらには刺激的。ただ刺激的ではあるけれども、若い男女のどちらも新聞の社会面から切り抜いたような既視感があり、逃避行もごっこのノリ。もっと挑発的な展開をしてほしかったと思う。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    孤独な魂の寄り合いの旅路。観ながら、さまざまな映画の記憶がフラッシュバックした。風景そのものに人物の心象を語らせようとする手つきは「地獄の逃避行」を思わせる。撮影は、とクレジットを確認すると「岬の兄妹」を手がけた池田直矢。なるほど、巧い。いまこのタイミングで観られるのにふさわしいつつましさ。外山監督と製作の小泉今日子、豊原功補に「映画屋」の矜持を感じる。そして、孤独と痛みを引き受ける役柄を演じさせたら右の出る者のいない俳優となった村上虹郎、いい。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    メインタイトルまで三十六分。バタバタもするが、アラブ音楽の前奏的な自信にみちたタメを感じた。外山監督、進むべき道に躍りでている。このつなぎでその画をもってくるのかという快い驚きが何度も。最初から逃げきれそうにない逃避行だが、村上虹郎の翔太も、芋生悠のタカラも、まさに生きる理由にむかって輝きを増していき、ラスト二十分、本当にいい。「安珍と清姫」の芝居も決まった。大島?「青春残酷物語」や長谷川和彦「青春の殺人者」ができなかったことが、確かにここに。

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