彼らは生きていた(2018)の映画専門家レビュー一覧

彼らは生きていた(2018)

ピーター・ジャクソンが、英国の帝国戦争博物館に保存されていた第一次世界大戦の記録映像を修復、再構築したドキュメンタリー。過酷な戦闘だけでなく、食事や休息を取るリラックスした姿など兵士に寄り添い、普通の青年が目にした戦場の風景に見る者を誘う。モノクロ、無音だった映像に最新のデジタル技術を用いて、カラー化や音声追加などの加工が施されている。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    いままでの戦争記録映画は、科学的一般的な関心に基づいて作られていた。バルト風に言えば「ストゥディウム」的。しかし本作は実際の退役軍人に語らせ、モノクロ映像に色彩を加え3D化した「プンクトゥム」的な手法。コード化不可能な細部が生き生きと蘇生。そのことで個々の人間性が出現。開戦が告げられ、兵役に招集され、戦地へ向かい、悲惨な戦場の模様が語られる。モノクロからカラーに変わる瞬間、我々は寒気に襲われる。戦争が距離を置いた記録ではなくなる瞬間。秀逸。

  • フリーライター

    藤木TDC

    モノクロフィルムをデジタル技術で着色した映像は近年珍しくない。第一次世界大戦のイギリス軍塹壕戦をダイジェストした本作もカラー化は驚くレベルではないが、フィルムのコマ数を秒/24に揃えるため新たに絵を作り足した映像のスムースな動きには唸る。ただそれらは案外煩雑な作業なのか修復パートは60分ほど。カメラが入れない最前線の激戦はイラストの紙芝居風描写だ。戦勝国民の従軍回想映像詩であり、終盤に厭戦気分も表現されるが、中盤までは好戦的ムードが強い。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    純粋に記録映像のみをつなぎ構築していく、シンプルゆえに技術が試される作品。どの映像にどんな退役軍人のインタビューをかぶせ、観客を飽きさせない映画に仕上げるかという難易度が前面に出ている。P・ジャクソンは序盤をソフトにし、次第に戦場の目や耳を覆いたくなる地獄をこれでもかと積み上げる手法を取っている。これは戦争反対の意志を伝える真っ当なドキュメンタリーであるし、同時に手法的には戦争の恐ろしさを目白押しにした、露悪的ともいえるホラーである。

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