ソン・ランの響きの映画専門家レビュー一覧

ソン・ランの響き

第31回東京国際映画祭東京ジェムストーン賞をはじめ各国の映画賞を受賞したヒューマンドラマ。1980年代のベトナム、サイゴン。取り立て屋のユンは、伝統歌舞劇カイルオンの花形役者リン・フンと出会う。二人は次第に打ち解け、家族について語り始める。出演は、本作がデビュー作となるリエン・ビン・ファット、ベトナムのアイドルグループ・365dabandの元メンバー、アイザック。監督は、本作が長編デビュー作となるレオン・レ。
  • 映画評論家

    小野寺系

    芸道ものやヤクザの哀愁といった古めかしい内容にブロマンス要素を掛け合わせたことで、現代的な文脈で見られる映画になっている。写真家として活躍する監督ということで、画面の色や、とりわけ静止画としての映像の美しさが際立っているところが肝か。その反面、脚本にはひねりがなく予定調和的で起伏に乏しい。ファミコンソフト「魂斗羅」二人同時プレイで、主人公たちの友情が深まる描写は、同じゲームを当時友達とプレイしている者としては嬉しくなってしまった。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    ベトナムの伝統的な歌劇を組み込んだ友情のドラマは、主人公の陰影に富むキャラクターと、ストーリーの運びがポイント。借金の取り立てが生業のユンが見せる、非情で暴力的な表向きの面と穏やかな内面がよぎる、一瞬の演技が素晴らしい。もう一人の主人公リン・フンが開演前に化粧をする時の陶然とした表情は、どこかウォン・カーウァイ監督作におけるトニー・レオンを思わせる。これを男性の友情とするには、二人の感情が発する微熱に、心が騒ぐ。結末に至る手際の良い展開が秀逸。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    画の質感、フレーミング、カッティングのどれもが映画的としか言いようがないもので、開始早々から傑作の予感に胸膨らませ、事実、中盤までの流れは素晴らしく、今の時代にこういう古典的でありながらも力強い映画作りを実践しているこの監督に全幅の信頼を寄せながら観ていたのだが、二人の男が心を通わせ始めるあたりから、どういうわけか映画が急激に失速した感触になり、終盤に至っては劇中歌劇に尺を割きすぎて、本線の方がいささか陳腐な着地をしてしまっているように感じた。

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