詩人の恋(2017)の映画専門家レビュー一覧

詩人の恋(2017)

「あゝ、荒野」のヤン・イクチュン主演、韓国・済州島を舞台に売れない詩人と妻と青年の三角関係を紡ぐ人間ドラマ。スランプ中の上に乏精子症と診断され苦悩する詩人テッキは、ドーナツ屋で働くセユンの呟きからインスピレーションを受け、彼に惹かれていく。監督は、初短編「One Day to be Passing By」(07/英題)で釜山国際短編映画祭最優秀監督賞を受賞、本作で長編デビューしたキム・ヤンヒ。妊活をはじめた妻を「名もなき野良犬の輪舞」のチョン・ヘジン、孤独を抱える青年セユンをル韓国ドラマ「恋するアプリ L OVE ALARM」の新星チョン・ガラムら、韓のチョン・カラムが演じる。2016年全州プロジェクトマーケット長編企画部門にて観客賞およびグランプリを、第18回釜山映画評論家協会賞にて脚本賞を受賞。第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映作品。
  • 映画評論家

    小野寺系

    夢見がちな中年の詩人の役を、ヤン・イクチュンが演じているのが意外だが、はまっているのがすごい。長篇は初だという監督による脚本が巧みで、この男の青年に対する恋愛感情をめぐる物語は、現実の問題に直面しながらも、ユーモアを含みながら先へとどんどん転がっていくのが楽しい。なかでも、女性の登場人物たちの辛辣なものいいが新鮮で、作品に多角的な視点を与えているといえる。田山花袋の『蒲団』を思わせる文学性もあるが、ラストには何らかの視野の広がりが欲しかった。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    ストーリーを進めるためのエピソードはふんだんに並べられている。例えば詩作の不調、不妊治療と乏精子症、夫婦関係、ドーナツ屋の美青年へのときめき、その青年の家庭環境。並べたはいいけれど、これらを回収しないまま次に進むので、待てどもドラマが深まらない。詩人役のヤン・イクチュンは前作「あゝ、荒野」とは違って、いまひとつ役柄から真情が見えない。詩人と青年以外のキャラははっきり描けているのが、なんとも不思議。結局、時は元に戻らないという話だったのでしょうか。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    題材のわりに序盤が妙に軽快なのは狙いで、物語が進むにつれ徐々に深刻さを帯びてくる演出には地味ながらも求心力があり、ダメ中年詩人のヤン・イクチュンの佇まいもリアルに、恋と呼べるのかどうか当人たちにも分からない微妙な感情の交わりを綴ってゆく語り口は優れているのだが、道ならぬ恋の葛藤の相手が「生まれてくる子供」というのはあまりに強敵で、この設定下で一度はそれを捨てようとした主人公を最後まで好きにはなれなかったがゆえに、苦い結末にはむしろ安堵を覚えた。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事