ハニーランド 永遠の谷の映画専門家レビュー一覧
ハニーランド 永遠の谷
アカデミー賞史上初となるドキュメンタリー映画賞・国際映画賞に同時ノミネートされた北マケドニアのドキュメンタリー。電気も水道もない谷で持続可能な生活を営む自然養蜂家の女性。彼女の暮らしとその変化を、3年の歳月と400時間以上にわたり撮影した。サンダンス映画祭グランプリほか3冠、全米映画批評家協会賞最優秀ノンフィクション賞など受賞。
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
神話のような映像。この風景と暮らしは数千年も変わっていないはずだ。目先の利益のための搾取は日常茶飯事で、それらは都市型経済や人間の消費のあり方がもたらした。自分たちが使う分だけ、半分は蜂に残して採取するという約束は、いつから崩れてしまったのか。人間の強欲を自然はどこまで許容してくれるのか。人言たちだけ好都合な「自然」に対し、我々は何ができるのか。人間の身勝手と対比される女性性の寛恕や寛容、力強さ、そして自己再生の奇跡。女性性こそが自然だ。
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フリーライター
藤木TDC
シンプルな構成でありつつ見たことのない映像が続く奇跡的な作品。北マケドニア辺境の荒涼とした風景の中、自然に対する人間の“寄生”を問い、「パラサイト 半地下の家族」と別角度から社会の矛盾やライフスタイルについて考えさせる。周到に造形されたような映像の美しさや寓話としてあまりに完成した展開からにわかにドキュメントとは信じがたいが、演出だとしても設計で容易に作りあげられる質ではない。北マケドニア映画は初めて見たが、レベルの高さに強い興味を持った。
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映画評論家
真魚八重子
長期間にわたって対象と接したドキュメンタリーだけが持つ物語性。これがじつは劇映画だと言われても信じてしまいそうなドラマティックさに驚嘆する。養蜂の物理的な痛みが隣人家族を襲う場面の、なす術のない状況に大自然のリアルさを見た。夜の野焼きの光も、単なるドキュメントでは捉え得ない稀有な撮影の賜物。主人公の女性の嘆きや繰言は、人は強さではなく置かれた状況に従わざるを得ない無慈悲さを表し、簡単に主人公への褒め言葉を許さない、人間の世界の怖さがある。
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