CURED キュアードの映画専門家レビュー一覧

CURED キュアード

ゾンビ・ウイルスのパンデミック収束後の世界を舞台にした近未来スリラー。人間を凶暴化させる新種の病原体メイズ・ウイルスに対する治療法が発見され、秩序を取り戻したアイルランド。だが、理不尽な差別に不満を抱く回復者の集団が、テロを計画していた。「X-MEN:フューチャー&パスト」のエレン・ペイジが、出演とプロデューサーを兼任している。監督のデヴィッド・フレインは、自ら脚本も手掛けた本作で長編デビュー。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    社会的正義と家族愛(同志愛)は天秤にかけられるのか。昨今の自粛警察や感染者差別などタイムリーすぎる要素が満載。劇中、感染者と健康な国民との間に、「回復者」という引き裂かれた媒介者が存在する。映画世界において記憶は書き換えられ曖昧になっていくのもあるが、本作では明白だ。二人の「回復者」の生き方は対極的で、一方は社会的正義として、一方は家族愛の道を選択。アビーの報道カメラは、大衆の記憶のメタファーとして機能しており、個人の記憶と対峙する構造。

  • フリーライター

    藤木TDC

    3月中旬に本作が封切られた時、世界がこんなふうになろうとは予想しなかった。今となってはあまりに時世を映し心臓が痛む。「28日後」などに描かれた狂犬化ウイルスの治療法開発後の回復者(Cured)を描くゾンビ世界史の更新作で、未感染者による回復者の差別、両者の分断と憎悪、カミングアウトのリスクなどトピックは広範で痛烈だ。監督がアイルランド人ゆえIRA解体を身近に見た影響を感じるが、コロナ感染拡大を経験した我々にはその回復後をどう生きるか自問させる映画。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    ゾンビ映画だが、現在のコロナ騒動を髣髴とさせる内容だ。ゾンビ化したのち、人間として回復した者が抱き続ける不安に焦点が当てられ、不運にも感染した人々の、後の葛藤や人間性が問われる。いささか性急な作りの場面もあるが、元感染者たちのテロ運動へと発展していく現代性や、血のつながりの薄い微妙な家族関係など、設定が効いている。全体を貫く静謐さと、クライマックスの街を覆う爆発力も目に鮮やか。エレン・ペイジの怒りや失望を理性で抑えた気丈さがいい。

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