精神0の映画専門家レビュー一覧

精神0

    第70回ベルリン国際映画祭にてフォーラム部門エキュメニカル審査員賞を受賞した想田和弘監督による観察映画第9弾。「精神」(08年)の主人公の一人である精神科医・山本昌知が82歳にして突然、引退することに。彼を慕ってきた患者たちは、戸惑いを隠しきれない。精神医療に捧げた人生のその後を見つめながら、病とは、老いとは、仕事とは、夫婦とは、そして愛とは何かを問いかける。
    • 映画評論家

      川口敦子

      観察映画を裏打つ想田監督の徹底的に無邪気な好奇心を前にすると「映画のため」ならとの思いと「人として」のもやもやとに引き裂かれる。今回も例えば墓参の山道を往く老医師夫妻を追う終幕、手一杯の医師がマッチを忘れていて、仕方なく煙のないまま墓前に立てかけられた線香が切り取られる。カメラを止めて差し延べる手はないのかと一続きのショットに抵抗感を?み締めて、それでも撮ることの意味と成果を思ってまた心が引き裂かれる。結ばれた老夫婦の手に涙しつつも。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      こんな事態になり、試写室に足を運べずにいる。よって今回の4作品は、DVDと視聴リンクをもらい、一週間かけて自宅で観た。まず日曜日に観たのがこの作品。前作「精神」にも感じたことだが、山本昌知さんの言葉は患者さんたちに寄り添いながら、同時に聞く人を立ち止まらせるような距離感をもっている。今回は妻の芳子さんとの関係性を見つめることで、夫婦の距離、さらに彼らを取り巻く社会との距離を浮かび上がらせる。鑑賞中、時折モニタに近づき、人物の顔の皺を凝視した。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      想田作品、「精神」と「港町」に飛躍点があったと思う。本作は「精神」で出会った医師を追い、「港町」からの延長線という面もある。前半は引退を決めた山本先生と不安がる患者たちとのやりとり中心で、後半は認知症の妻との暮らしぶり。猫や中学生たちの挿入など、無雑作そうにやって決まるのはさすがとはいえ、オーケーの幅の広さが必ずしも作品世界を外に連絡させることにならない。そこに、もどかしさも。想田監督と山本先生。接点をあまり感じさせないのも「観察映画」の方法か。

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