島にての映画専門家レビュー一覧

島にて

    山形県唯一の有人離島・飛島の人々の暮らしを記録したドキュメンタリー。かつて日本海側の海の交通の要所として栄えたが、過疎と高齢化が進み現在は約140 人が暮らす飛島。漁師、島唯一の中学生、Uターンなどで来た若い人らが島で営む平成最後の年を映し出す。監督は、「ただいま それぞれの居場所」で平成22年度文化庁映画賞文化記録映画大賞を受賞した大宮浩一と、「桜の樹の下」で第71回毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞を受賞した田中圭。
    • 映画評論家

      川口敦子

      G・ブラック「女っ気なし」と2本立てで見たいと思った。寂れた海辺の町と人々への懐かしさを芯とした眼差し。単なる好奇の目とも無邪気という名の無責任(な距離)に満ちた視線とも無縁のやさしさがじわじわと全篇を包んでいく。たったひとりの中学生、その未来への思い。海をみて暮らす老人たち、昔日への思い。帰って来るなと言われたのに帰って来たと笑う者。時間をかけて見えてくるもの――近づきすぎず遠すぎない撮り手の奇を衒わない自恃と覚悟がそれを支えている。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      近頃巻き起こったドキュメンタリー映画についての議論では作り手と対象者の距離をどうとらえるかが重要な課題となっていたが、同時に僕は作り手の加害者性が自明のものとして認識されている状況にひどく違和感をおぼえる。その違和感に対する一つの回答が、たとえば島田隆一の「春を告げる町」であり、この作品ではなかろうか。息苦しい自己言及に埋没せず、目をこらし、耳をすませることで見えるもの、聞こえるものは無数にあるはずだ。月曜の夜、僕は一人の部屋でそう自問した。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      大宮監督からも多くを学んできた。その構成の自在さが本作は文句なしにすばらしい。人口二百人を切るという飛島。小さな宇宙を舞台に、ひとりに向かうときにその人を取り囲むものをしっかりとつかんで共生感をたちのぼらせる。現実的でかつ詩的でもある。すてきな人、味のある人、生気のある人が、おいしいものを食べている。家の中でも外でも食べる。これこそが一ミリも譲ってはならない人間世界だと拍手したくなった。過去を軽んじることなく、現在がたっぷり。未来も見えてくる。

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