グッド・ワイフの映画専門家レビュー一覧

グッド・ワイフ

映画祭などで高評価を得たメキシコの新鋭女性監督アレハンドラ・マルケス・アベヤの長編2作目。1982年、メキシコシティの高級住宅街で夫や3人の子どもたちと幸せな生活を送るソフィア。だが、歴史的な経済危機により、彼女の完璧な世界は崩壊し始める。出演はNetflix「犯罪アンソロジー:大統領候補の暗殺」のイルセ・サラス、「ダークレイン」のカサンドラ・シアンゲロッティ。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    「80年代のメキシコ富裕層の妻たち」という題材に興味がない人にとっては恐ろしいほど退屈な前半。しかし、不敵なほどゆったりとした一人称的語り口で作品が進行するにつれて、本作が一人の女性の精神が崩壊していく過程を描いたユニークな作品であることが判明する。まるで、「ブルージャスミン」からユーモアを根こそぎ抜いたような辛辣さ。有名テレビシリーズ及びその日本版で流通しているのと同じタイトルを、原題から離れて邦題としてつけた不親切さには疑問を覚える。

  • ライター

    石村加奈

    喝采の音で、女王の代替りを示唆するなどのユニークな音楽と、ヒロインの心模様を活写したようなリズミカルなカメラワークで、三人も子供を持つ大人でありながら、未だに姫様に甘んじていたいソフィアの内省的な変化が、好感をもって描かれる。D・ラドローのカメラは、ソフィアが夢想する“世界の恋人”フリオ(〈人生を忘れて〉の選曲も秀逸)の歌声のようにやさしい(母親と電話するシーン!)が、カメラを正面から見つめるソフィアの目はクールだ。特に二度目はこわいくらいだ!

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    82年のメキシコ経済危機を、大富豪の妻として贅沢三昧の「バラ色の人生」を謳歌していたソフィアの視点で描いているのだが、一寸先は闇を地でいくその凋落ぶりがとにかくエグい。貧困層の視点とはまた違うそのねっとりとした崩壊は、資本主義の醜悪な側面を浮き彫りにし、いま世界中の人間が直面しているリアルと重ねてしまう。終盤、富裕層仲間に呼ばれたパーティでの彼女の自意識と絶望の揺らぎを、時系列を少しずつズラしたカットバックで表現したシークエンスが秀逸。

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