シチリアーノ 裏切りの美学の映画専門家レビュー一覧

シチリアーノ 裏切りの美学

第68回ヴェネツィア国際映画祭にて栄誉金獅子賞を受賞したマルコ・ベロッキオ監督が、マフィアの掟を破ったパレルモ派の大物を描いた伝記ドラマ。犯罪組織コーザ・ノストラに失望したブシェッタは、信頼するファルコーネ判事に組織の罪を告白する決心をする。主演は「修道士は沈黙する」のピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。政府に寝返ったブシェッタを描いた本作は、イタリアのアカデミー賞と呼ばれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞にて作品賞など6部門を受賞。第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。第92回アカデミー賞国際長編映画賞イタリア代表作品。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    ベロッキオ81歳。マフィアではなく、直訳すれば「俺たちのもの」というコーザ・ノストラと自分たちを定義。家族を神聖なものとし貧しきを守る理念。イタリア80年代に366人もの逮捕状が出た歴史的な実話。一見、一族を斬殺されたトンマーゾ・ブシュッタの改悛劇であるが、コーザ・ノストラの生き様を固守した男の物語だ。復讐はあくまで法治国家国民として。劇的なアクションはないが、イタリア的叙情で叙事を描写。家族を尊ぶ姿勢はイタリア人には普遍的本能か。国技か。

  • フリーライター

    藤木TDC

    コッポラやスコセッシからマフィア映画をイタリアに取り返した、という感じの優雅で血生ぐさい秀作。このジャンル好きには文句なく薦める。80年代、シチリアの組織に大打撃を与えた大物ブシェッタの自白の過程とその後を描く実録篇は、P・ファヴィーノの悠然たる大物演技が魅力的で裏社会に生きた男の虚ろで複雑な「正義感」が胸をうつ。時制が錯綜し筋が分かりにくい弱点はネットフリックスの記録映画「裏切りのゴッドファーザー」やちくま新書『イタリア・マフィア』で補完を。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    俯瞰的に物語が追えるか、ドラマが動いたその都度を説明できるかと言われたら自信がない。重要事項がセリフだけで説明されたり、大量の登場人物の顔と名前が一致する前に、時間が座標もなく経過していったりするので困惑する。前半と後半のリズムの違いも大胆だ。ベロッキオは「肉体の悪魔」で法廷内の檻が極めて印象的だったので、本作での再登場は目が覚める思い。風変わりなベロッキオがさらに老人力を身に着けて撮っており、通常の理解では補いきれない長篇になった。

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