不完全世界の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
群像劇を究めたアルトマンは、ひとつでは見えない何かが複数の物語を紡ぐことで見えてくると述懐した。古本・齋藤両監督の映画を前にして実は、なぜオムニバスと最初は訝しく感じたけれど、3つの物語を撚り合わせゆっくりと母性という物語を浮上させる様にいつしか抵抗感が遠のいた。いっぽうでJ・クロフォードと娘を描いた映画の記憶もうっすらと想起させる第参話はじっくり単独で描いてみて欲しい気もした。娘役川相真紀子のくぐもった存在感の演じ方、もっと見たいと思った。
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編集者、ライター
佐野亨
「僕の好きな女の子」がすべて想定の上に構築されているのに対して、この映画には想定が裏切られることをおそれない、むしろ待望しているかのような自由さがある。そうすると不思議なもので、シチュエーションや対話の成立/不成立がおのずと豊かな映画の時間を刻み始める。三部構成だが、古本恭一監督の一・三部と齋藤新監督の二部が互いに世界の不完全さ、それをめぐって右往左往する人間たちの群像劇として呼応し合う形になっており、ラストには奇妙な安堵感が残る。
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詩人、映画監督
福間健二
三部構成。なんと本作脚本の水津亜子演じる元アイドルの千波が活躍する二部に入り、活気が出た。千波は、突然死んだ夫の不倫相手で妊娠している女性の身がわり役に会って、声が出なくなる。夫の残したものは放棄し、筆談で挑む就活の末に、車で売るピタパン屋に強引に就職するのだが、やることすべてに明快さと意外性がある。一部と三部の古木監督がピタパン屋でもある。二部は齋藤監督だが、「手触り」にチームとしての気合いを感じた。三部の、自身に近い役の吉村実子、偉い。
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