この世の果て、数多の終焉の映画専門家レビュー一覧

この世の果て、数多の終焉

第二次世界大戦末期のフランス領インドシナにおける凄惨な戦場の実態と傷ついた一人の兵士の魂に迫った戦争ドラマ。駐屯地での殺戮をただ1人生き延びたフランス人兵士ロベールは、兄を殺害したベトナム解放軍の将校への復讐を誓い、部隊に復帰するが……。出演は「ロング・エンゲージメント」のギャスパー・ウリエル。監督は「愛と死の谷」のギョーム・ニクルー。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    変わった戦争映画だ。仏領インドシナで、兄夫婦を惨殺され独り生き残ったウリエル扮するロベール。ヴォー・ビン・イェンへの復讐とヴェトナム人の美しい娼婦マイとの逢瀬。しかしその両輪は次第に盲目的な復讐へと傾斜。国家間の争いが戦争であるが、個人的な動機や本能しか原動力として機能しなくなる。そして最終的には復讐する相手の顔すら輪郭がぼやけていく。目的を忘却した個人はもはや彷徨い続ける哀しい亡霊のように永遠に迷宮に残留する。まるで日本の能を見ている様だ。

  • フリーライター

    藤木TDC

    ヘルツォークをさらにゲテモノ化した味つけ。アート映画風でありつつ、見てはいけないものを見てしまった虫唾感を残すエモい怪作だ。ヴェトナム戦争の前段、フランスが敗退するインドシナ戦争開戦前数カ月の仏軍兵士の日常軍務と溶解する内面を悪趣味映画的手法を交えて幻想的に描写する。東南アジアの密林を汎神論と女性性の領域とし、侵略の象徴として男根が何度もモロに大写しに。そこにキリスト教世界と男性性の敗北の比喩があり、フーコー哲学的でフランス映画らしい。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    グロ描写とセックスが最近のフランス映画らしい。戦争中とは思えない心理ドラマの幕も開けて、謎めいた青年ロベールの物語が立ち上がる。ただ過去のトラウマとなった出来事や、追い回す仇敵について視覚的な情報が少ないため、ロベールがどんな狂気に駆られているのかはピンと来ない。動機に寄り添えず、戦争状況も見えないのでどこに突き進んでいるのか把握しづらいのが瑕。ウリエルの佇まいが良く、戦争という非日常の中で現れる甘美で退廃的なドラマは心惹かれる。

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