人数の町の映画専門家レビュー一覧

人数の町

第1回木下グループ新人監督賞準グランプリに輝いたミステリー。蒼山は黄色いツナギを着たヒゲ面の男に助けられたことをきっかけに、衣食住が保証され、快楽を貪る毎日を送ることができ、出入りも自由だが決して離れることはできない奇妙な町の住人になる。CMプランナー、クリエイティブディレクターとして多くのCM、MVを手がける一方、2012年よりシナリオを学び、2016年テレビ朝日21世紀シナリオ大賞・優秀賞、2017年MBSラジオ大賞・優秀賞を受賞した荒木伸二の初長編作品。町の謎に迫る蒼山を「水曜日が消えた」の中村倫也が演じる。
  • フリーライター

    須永貴子

    世界観の完成度の高さに、ディストピア小説の換骨堕胎に成功した原作ものと思ったら、監督のオリジナル脚本と知り感嘆した。主人公がたどり着いた「町」はフェンスで囲まれて自由はないが、衣食住が保障されており、一概にディストピアとは言い切れない。我々観客が暮らすフェンスの外側の過酷さに、なんならフェンスの中がユートピアに見えてくる。フェンスを挟んだ二つの世界を対比し、その様相を変化させながら問題提起し、いつしか観客が主人公として映画の中に存在する。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    作者のイマジネーションの豊かさは称賛に価する。が、映画として何を面白がればいいのかわからないし、見ていて訴えかけてくるものも感じられない。設定はユニークなのだが、そこに蠢く人間たちは、どれもありきたりで興味をそそる人は一人もいない。そんな人間だから、「町」に収容されてしまうんだろうが。人を感心させるために作られているような感があるが、そういう映画に人は心を揺さぶられない。いい映画には良くも悪くもスピリットがあり、それが人の心に震わせるのでは?

  • 映画評論家

    吉田広明

    劇場版やら第二弾やら、意気を欠く企画の多い現在、オリジナル勝負は評価。ネカフェ難民や自己破産者、DV逃亡者などに衣食住を与える代わり、身代わり投票、ネット世論の醸成など「人数」として働かされる町。フーコー的生政治の究極的ディストピア。自由だけはない彼らと、自由はあるが生きることすらままならないホモ・サケルの外の世界とどちらがより少なく不幸なのか考えさせられる。結末に文句はないが、ディストピア崩壊を見たいし、その方途を想像する力を我々も持ちたい。

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