狂武蔵(2020)の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
斬る人、武蔵――。山道や野っ原、寂れた集落などを吉岡一門と追いつ追われつしながら、77分、カットなしで、ただただ斬り捨て、斬り進む。ほとんど無言の武蔵の斬り捨てアクションに特化したのは、坂口拓の狙いなのだろうが、設定がシンプルなので観ながら雑念が次々。カメラやアクションだけではなく、太陽の動きまで気になり、遂には延べ400人という斬られ役たちの、2度、3度の使い回し(!?)を想像したり。が、終盤のプラス映像はかなり鮮烈で、老いた武蔵には死霊の影も。
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編集者、ライター
佐野亨
スローモーションとモノクロ映像を駆使した「スタイリッシュ」な冒頭に早くもいやな予感がつのる。そこからこの映画の最大の(そして唯一の)ウリらしい77分ワンカットの吉岡一門との乱闘シーンへとなだれ込むが、手持ちキャメラで武蔵の背後からその足取りをとらえるだけで、なんの変化も工夫もない。斬られたあと早足でフレームアウトする刺客たちには失笑(ダウンタウンの番組にこんなのあったぞ)。自慢気に撮影風景のスチルを見せられても、いったいどう思えばいいのやら。
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詩人、映画監督
福間健二
おそらく、問題の多い出来ばえの、しかし苦労して撮った、殺陣がえんえんと続くワンシーン・ワンカットがあり、時間を経たのちになんとかそれを活かそうとしたものだろう。下村監督、関与度はわからないが、お疲れさまである。まず、殺陣シーンの問題点。斬れていない。叩いている。血糊の袋が破れるだけ。そういうこと以上に、人を斬ること、人を殺すことについて考察が感じられない。後処理のほうも悲惨だ。この武蔵は、狂っているのではなく、キャラクターにたどりつけないのだ。
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