やすらぎの森の映画専門家レビュー一覧

やすらぎの森

カナダ・ケベック州の人里離れた深い森を舞台に、人生の晩年を迎えた世捨て人たちの姿を綴る愛と再生の物語。湖のほとりの小屋で穏やかに暮らす年老いた3人の男たち。ある日、60年以上も外界と隔絶していたという80歳の女性ジェルトルードが彼らの前に現れる。主演は、本作が遺作となった「天使にショパンの歌声を」などのアンドレ・ラシャペル。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    周期的に必ずやってくる自然災害といえば、東北地方を襲った東日本大震災による津波も同じだろう。歴史的に見て周期の差こそあれ必ずやってくる自然災害。それは人間が勝手に統治できていると思っている自然からのゆりもどしだ。その周期的な災害がもたらす共通の集団トラウマとの間に挟まれたごくごく小さな一個人という人間の有り様。人間ではとても抗うことのできない事象の隙間の小休止に、自分の生の存在意義や生まれたこと、そして生き残ったことへの意味を探る尊厳を見た。

  • フリーライター

    藤木TDC

    リタイア後の理想郷物語として面白く、隠遁者の生活物資補給や現金収入など現実的問題も押さえており感心。ただ東京に住んでも窓全開すれば室内に蚊や蛾や蜘蛛が侵入するのに森林暮らしで虫害がないのは信じられないし、水辺の木造家は湿気も大敵で画面に映るロッジ型ホテルのような衛生的生活は実際には難しいはず。高齢者が掘っ建て小屋でカナダの冬を越せるか、肥満体を維持できるのか等、大小いくつもある不審点に目をつむり、ファンタジーと割り切れば泣けるいい映画だ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    自分の人生を自分で決めるというのは、ワガママを押し通さないと無理なのだと思う。本作は自分自身に従ったら社会から逸脱してしまった者たちを、ちょうどいい温度で描く。たまに山を降りてバーへ行けるような、社会との適度な距離感が絶妙で、山火事の迫る不穏な気配が立ち込めつつも悲愴ではない。過度な擁護に走らず、ことさら陰鬱にもならず、カリカチュアもないのに観ていられる不思議な演出力。気の合った男女の軽い和気藹々ぶりと、老年のピュアな恋愛のどちらも魅力的だ。

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