海辺の家族たちの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
小野寺系
マルセイユの北西に位置する入り江(カランク・ドゥ・メジャン)の、高いアーチ状の脚を持つ鉄道橋をバックにした、美しくも閉塞感の強いロケーションが、まるで劇場の舞台セットのようで、登場人物の会話によって構成される演劇としての魅力を持つ本作に素晴らしい劇的効果を与えている。同時に、この舞台に刻まれた歴史や、フランスの地域にまたがる格差問題、不法移民問題など、解決されざる現実社会の不安要素の描写は、やや表面的ではありながら無理なく劇中に詰め込まれている。
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映画評論家
きさらぎ尚
マルセイユを舞台に市井の人々を温かに描くという意味では、監督のこれまでのスタイルとそう変わらない。ではあるが、主題をよりパーソナルに引き寄せたとは言えるかもしれない。故郷で自分の過去と向き合う三人兄妹の思い出と現在とを物語に同居させ、しかし、くどくど説明せず具体的な事実を点描することによって、見る者は彼らに自身を重ねる。人生を先に進めるために過去を解決すべきというメッセージが、未来への展望を含め、堅実な作風から伝わる。時の流れの語り口がうまい。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
これぞおフランスな雰囲気の画面には美しい海辺の風景とお年寄りばかり、グループショットはやたらキマっているのに会話における寄り画の切り返しはいささか凡という薄味の演出に「このノリで押し切られるのはちょっとしんどいなあ……」と、あくびをかみ殺しながら観ていたのだが、家族と恋人たちの物語は静かにもつれ合いながら次第に深度を増してゆき、難民の子どもたちの登場で映画の輪郭がはっきり見えてくる中盤以降の展開は素晴らしく、鑑賞後は不思議な多幸感に包まれていた。
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