アウシュヴィッツ・レポートの映画専門家レビュー一覧

アウシュヴィッツ・レポート

アウシュヴィッツ強制収容所を脱走した二人の若いスロバキア系ユダヤ人のレポートによって、12万人のユダヤ人の命が救われた実話を映画化。スロバキア人のペテル・ベブヤクが監督を務め、第93回アカデミー賞国際長篇映画賞のスロバキア代表作品に選ばれた。脱走を実行する二人を、「オフィーリア 奪われた王国」のノエル・ツツォル、新人のペテル・オンドレイチカが熱演。二人を救済する赤十字職員には「ハムナプトラ」シリーズのジョン・ハナーが好演している。二人のレポートは、通称「アウシュヴィッツ・レポート」と呼ばれる「アウシュヴィッツ・プロトコル(Auschwitz Protocols)」を構成する報告書の一つで、1944年4月に、アウシュヴィッツを脱走したアルフレート・ヴェツラーとヴァルター・ローゼンベルク(後に、ルドルフ・ヴルバに改名)の二人によって、収容所の内部やガス室の詳細などをまとめたもの。このレポートによって、ハンガリーのブダペストからアウシュヴィッツへの移送が中止となり、約12万人の命を助ける結果となった。正式には、44年11月に米国戦争難民委員会から発表・出版。収容所内部の詳細が描かれていたため、戦後1945年に行われた歴史的なニュルンベルク裁判においても証拠として用いられた。
  • 映画評論家

    小野寺系

    勇気ある告発やジャーナリズムが、いかに世の中の狂気を押しとどめる力があるのかを示す、本作の訴えかけるメッセージは重要なもの。アウシュヴィッツ収容所での惨状を、人々がにわかに信じられなかったという描写もなまなましく、当時の状況が現在の問題として、リアルに感じられた。その一方で、映像に美学的なこだわりを見せる意義については理解し難い面も。この題材であれば、より多くの観客が共感できるような、物語を主体にしたアプローチの方が相応しかったのではないか。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    ナチス・ドイツが隠そうとしていた実態を暴き出す。人間の所行とは考えられない蛮行が本当に行われていたとは……。映像に戦慄する。主人公の二人が収容所の外へ脱出するまでのドラマとしてのスリルはさておき、受け止めるべきは劇中で提示される、(ドイツ軍による)殺害者数や、それに使った化学薬品などのエビデンスで主題を強調する意味。行われた真実を伝える監督の覚悟。そしてエンディングで現代の政治家らの音声をかぶせ、過ちを繰り返すことへ警鐘を鳴らした意味も。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    「面白い」などという言葉を使うことが憚られる内容とはいえ、序盤にアウシュヴィッツ内のあまりに非道い惨状を見せられるが故に脱走囚人二人への感情移入度合いが半端なく、ナチスはもとより、分からず屋のヘタレ赤十字にも怒り止まらず、終始手に汗握り見入ってしまったわけだが、これが史実だと思うとやはり簡単に面白いなどとは言えない……けど、やっぱり直接的な残酷描写を巧妙に避けつつも静寂の中で呼吸するサスペンス演出の切れ味が抜群で、面白かったとしか言いようがない。

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