83歳のやさしいスパイの映画専門家レビュー一覧
83歳のやさしいスパイ
老人ホームで潜入捜査を行う高齢男性に密着したユーモアあふれる温かなドキュメンタリー。“高齢男性募集”という探偵事務所の広告に応じて採用された83歳のセルヒオ。電子機器に不慣れな彼は、スマホの操作に悪戦苦闘しつつも、潜入捜査を開始するが……。監督は探偵事務所で働いた経験を持つドキュメンタリー作家、マイテ・アルベルディ。第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
なんと美しい老人施設であろうか。花が咲き乱れ、鳥が歌い、人間が歌を詠み、陽光で満たされる。ドキュメンタリー的に展開していくサスペンス風探偵物語は、いつのまにか台本のないヒューマンドラマと化していく。私物が盗難に遭い、家族の訪問がなくなり、記憶も曖昧になっていく。老人ホームは「謎」が充満していく。日常を充実した晴れやかな眼差しで捉える人間にとって、誕生日会も葬式も同義語。映像には映り込まないテーブル下での手繋ぎや人生の記憶。心温まる一本だ。
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フリーライター
藤木TDC
題名にある「スパイ」のミッションはすぐ放置されNHKが作りそうな老人ホーム密着ドキュメントに方向転換。高齢者福祉の課題はチリでも同じで、熟年男女の交流に心温まるより、家族面会がなく置き去りにされた人々の寂しい集住に暗鬱に。時々再開されるミッションは他人の動向を盗撮したり無断で部屋を捜索したり。その映像を映画に使ってるのに調査は途中放棄、スパイは優しい家族のもとへ帰る。難しい企画をやろうとして全て曖昧になった印象。こんな無責任な展開でいいのか?
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映画評論家
真魚八重子
ドキュメンタリーとモキュメンタリーの狭間を自由に往来する演出のあり方が、本能的で良い。現実と虚構に堅苦しく線引きをするのではなく、スパイという演出に愛嬌を持たせて、ちょっとしたメタ的な視座を織り込むことに成功している。ただ老人ホームを悪く描く気は毛頭なかったとしても、好き好んで入りたいわけじゃないという現実は滲むので、鑑賞後はどんよりしてしまう。映画は認知症によって人が変わり、死の恐怖に囲まれる老いを率直に捉えられる段階だが、対処法は遠い。
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