夕霧花園の映画専門家レビュー一覧

夕霧花園

台湾恋愛映画の名手トム・リン監督が、マレーシアを舞台に撮り上げた歴史ラブストーリー。1980年代。女性裁判官のユンリンは、かつて愛した男で謎多き庭師・中村がとある財宝にまつわるスパイとして指弾されていることを知り、彼の潔白を証明しようと決意する。出演は「インフェルノ 大火災脱出」のリー・シンジエ、「祈りの幕が下りる時」の阿部寛、「妻の愛、娘の時」のシルヴィア・チャン。原作はマレーシアの作家タン・トゥアンエンの小説でブッカー賞ノミネートの「The Garden of Evening Mists」。第15回(2020年)大阪アジアン映画祭オープニング作品。
  • 映画評論家

    小野寺系

    ここで再現される、日本軍がアジア各地で行っていた蛮行を映し出した光景は、とくに日本人が見ておくべきものだろう。そして、そのような深刻な歴史的事件とは対象的な日本のイメージとして、阿部寛の役が体現する日本庭園の理念なども配置されるところが本作の特徴。だが、あれだけの地獄を表現した後で、文化の神秘性や特殊性を持ち出すのはさすがに悠長過ぎるのではないだろうか。暴力的なシーンに重さがあるゆえに、劇中のスパイ騒動やミステリーが軽いものに感じてならなかった。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    戦中戦後の日本軍とマレーシア、続いてかの国と英国軍、さらに80年代の、三つの時間軸。その軸を貫くヒロインに日本庭園造園の背景や山下財宝などのエピソードが濃密に絡まり、パッチワークを彷彿。主要人物4人が台湾、マレーシア、日本、英国人俳優なら、監督、脚本、それからスタッフ陣もまさに多国籍。その効果は画面にくっきり。日本軍の収容所、緑滴る茶畑や霧の日本庭園、千羽鶴などの屋内の設え、タトゥー。耽美的でさえあるも、一方、消化不良ぎみの感がする。惜しい大作。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    マレーシアでの日本兵の蛮行が生々しく描かれており、日本人としていたたまれない気持ちになりつつも、菊池寛『恩讐の彼方に』男女版を思わせる悲恋物語のどうしようもない切なさは胸に迫るものがあったのだが、隠し財宝や収容所の位置と刺青、庭石の関係性などが明かされるミステリ風の終盤は捻りがきいているとはいえ、それまで散々に日本庭園や刺青の芸術性について語ってきたことを考えると、そんなことに利用するのは文化芸術に対する冒?とも思え、少々モヤついた気分になる。

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