大地と白い雲の映画専門家レビュー一覧

大地と白い雲

北京電影学院の教授を務めるワン・ルイが、自身の過去の痛みに向き合い、亡き妻に捧げた夫婦の愛の物語。内モンゴルの草原。都会での生活を望む夫のチョクトと、今の暮らしに満足する妻のサロールは、互いに愛し合いながらも、徐々に気持ちがすれ違っていく。不器用でまっすぐな夫婦を演じるのは、遊牧民の家庭で生まれ育った俳優のジリムトゥと歌手のタナ。内モンゴル出身の俳優やスタッフと共にモンゴル語で挑んだ本作は、中国最大の映画祭、金鶏奨で最優秀監督賞、東京国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞するなど、高評価を得た。
  • 文筆家/女優

    睡蓮みどり

    好き勝手に生きる夫とそんな夫を愛し健気に生きる妻。夫婦の価値観の違いに焦点を当てているが、モンゴルの美しく広大なロケーションのなかで、延々と続く夫婦のすれ違いが間延びして感じられる。夫が都会へ出たい衝動と、妻が草原地帯のゲルに止まりたい理由をもう少し深く掘り下げて垣間見たかった。妊娠と体調不良で夫が愛に気づくのも、愛の物語としては男性的ご都合主義でやや昭和調。極めてホモソーシャルなカラオケのシーンではビール瓶のあまりの多さが可笑しく楽しい。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    羊と雲が形態の類似で繋がれるなら、青い空は緑の草原であり、馬とバイクは並んで走る。広大な草原も、はるかな地平線も、雲以外に陽を遮るもののない一面の空も、街に出ればカラオケのビデオに使われている。吹雪がもたらすドラマもありふれたものだ。いかにしてクリシェの上流にとどまるか。この映画が西部劇を思わせるとすれば、それはたとえばこんな問いを通してである。神話と伝説の生まれた地点を指し示すこと。それにはのっぺりと人物を照らす均一な光が必要なのだ。

  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    行き先を言わずに出ていきたくなる夫の気持ちがよく分かる。なんか縛られてる気がするんだよな。久々に帰ってきた夫に、最初ブスッとしていた妻がお土産一つでコロッと笑顔になって甘える仕草のなんと可愛いことか。朴訥な二人の戯れあいが実に微笑ましい。そして二人が初めてスマホを買って、離れた部屋でお互いの動画を見ながら話すシーンがいい。スマホという道具があって初めて自分たちの本音が言えるのだ。簡単に夫婦愛を謳いあげないラストも良かった。

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