レリック 遺物の映画専門家レビュー一覧

レリック 遺物

日系オーストラリア人監督、ナタリー・エリカ・ジェームズのデビュー作にして、全米3週連続第1位を獲得したホラー映画。監督が毎年夏を過ごした母の故郷・日本で祖母が認知症によって変わってしまったことにショックを受け、「老い」をテーマにした哀しい物語を紡いだ。主人公のケイを演じるのは「メリー・ポピンズ リターンズ」「マイ・ブックショップ」のエミリー・モーティマー。その老母役に「マトリックス・レボリューション」のロビン・ネビン、ケイの娘役に「ネオン・デーモン」のベラ・ヒースコートと、三世代の演技派女優が共演。プロデューサーは俳優のジェイク・ギレンホール、「アベンジャーズ」シリーズの監督としても知られるルッソ兄弟が名を連ねている。認知症によって失われてしまう記憶と悪夢のような恐怖の連鎖を描きながらも、家族の絆やジェンダーの問題に踏み込み、ホラーの枠を超えて人間存在の根源を問う映画となっている。
  • 映画評論家

    上島春彦

    認知症ホラー。老婆が即身成仏みたいになっちゃう画面は面白いが理屈に合ってない気がする。結局ただの人間でしょう。秀逸なのは孫娘が勝手知ったる家の中に何故か閉じ込められる趣向で、ホラーハウス物の常道。ではあるが、邦画「わたしたちの家」の多次元空間とか「ポルターガイスト」の延びる廊下を思わせてスリリング。老婆の心象風景の実体化みたいでここは怖い。ただ基本、人物間に怒りや憎悪がないので無間地獄という感じにならない。いい話にしない方が良かったのでは。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    冒頭の薄暗い室内でクリスマスライトに照らし出される老婆のショットから「呪いの家」の見事な全景を経て犬用の出入り口から産み出されるように娘が出てくるショットまでの映像イメージの連鎖は監督のたしかな才気を感じさせるし、堂に入った視線の誘導も劇中のサスペンスを絶やすことはない。ただ、本作の肝であろう「壁を使ったサスペンス」が傑作「壁の中に誰かがいる」や「ドント・ブリーズ」のようには機能しておらず、やや抽象的な表現に陥っているのがもったいない。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    アンソニー・ホプキンスの「ファーザー」は、認知症の人物の視点によるサスペンスが斬新だったが、こちらも認知症の人物の内的な心象風景が舞台設定において再編成されたような作りのホラー。結末にある「裂け目」が訪れるまで、前情報がなければ迷宮に迷い込んだような気分に陥るものの、その「裂け目」から作り手の思潮が一気になだれこみ、謎が一挙に溶解していく鑑賞感がもたらされる。女性の映画作家にあって、ケアの現場に女性しかいないこと自体が風刺化されているのでは。

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