ミス・マルクスの映画専門家レビュー一覧

ミス・マルクス

経済学者カール・マルクスの末娘で社会主義とフェミニズムを結び付けた女性活動家エリノアの半生を映画化。1883年のイギリス。エリノアは劇作家のエイヴリングと出会い、恋に落ちる。しかし、不実な彼への献身的な愛は、次第にエリノアの心を蝕んでいく。監督・脚本は、「Nico, 1988」のスザンナ・ニッキャレッリ。出演は、「未来を花束にして」のロモーラ・ガライ、「戦火の馬」のパトリック・ケネディ。2020年ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門FEDIC賞、ベストサウンドトラックSTARS賞受賞。2021年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞11部門ノミネート、3冠受賞。
  • 映画評論家

    上島春彦

    ここまでダメダメちゃんを主人公にした映画は空前絶後。それがカール・マルクスの娘というのがミソである。有能な進歩派論客である彼女の苦難の生き方を辿る。しかし同時に彼女は親父の思想的虐待の被害者と言うしかない。こういう女ほどダメンズに引っかかる、の法則が完璧に当てはまる例だ。よくある話で少しも謎じゃない。それより興味深いのは、彼女の誤った選択が彼女の熟慮の末の選択であるかのように自分自身は思いたがっていること。親父の隠し子の一件も描かれていて貴重。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    パンクロックな音楽と共に直立不動の女にカメラが迫っていくオープニングは、直近に公開されたフェミニスト映画の秀作「ペトルーニャに祝福を」(19)と同型であり、期待を高める。カメラ目線で観客に話しかけるかのようなスピーチ、誰も聞いていないお喋り、イプセン『人形の家』の劇中劇における台詞などは、エリノアの語りの形態を複数化する試みとして、彼女の言葉を誰が真に聞いていたのか? という問い、及び女の語りが軽視されてきた歴史的背景とも絡み合い必然性がある。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    昨今世界的にマルクスが大ブームだという。それは恐らく限界に達した資本主義から逃れる道を模索してのことだろう。本作はそんなマルクスがロンドンに残した末娘・エリノアに関する伝記映画である。マルクスは労働によって人の価値は形成されると説いた。しかし、残念ながらこの映画にエリノアが労働している様子はほとんど映っていない。ブルジョワのお嬢ちゃんが自我を持て余して世界を正しく論破していく様子は鳴り響く軽薄なパンクロックとあいまってあまりにナイーブに思えた。

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