フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊の映画専門家レビュー一覧

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソン監督の第10作目。20世紀、フランスの架空の街に編集部のある『フレンチ・ディスパッチ』誌は人気を獲得していたが、編集長が急死し、遺言によって廃刊することに。追悼号にして最終号の全貌とは? 出演は、「ボーダーライン」シリーズのベニチオ・デル・トロ、「エア・ストライク」のエイドリアン・ブロディ、「サスペリア」のティルダ・スウィントン。
  • 映画評論家

    上島春彦

    監督独特の(画面への)正対性を観客に意識させる演出は、雑誌というメディアのグラフィックと相性がいい。私としては珍しくこの監督の画面にすっと入ることが出来た。ページ立てを示して始まる主要な挿話群は雑誌の中身の映像化なのだ。記事自体はいわゆるトールテイル(ほら話)の集積で、多用されるナレーションもその雰囲気を盛り上げる。監督の想像力で変換、ろ過されたフレンチ・カルチャーの可笑しさ、という構図は警察官のグルメ料理人の挿話にとりわけ効果を上げている。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    まさに「グランド・ブダペスト・ホテル」のような作り込まれたウェス・アンダーソンの世界観が広がっており、作家の思い描く理想のイメージの具現化の力量ひとつとっても、それを期待していた観客層としては瑕疵として挙げる点はない。とくにベニシオ・デル・トロと「ミューズ以上」の裸身のレア・セドゥのペインティングシーンは瞠目に値する。ただ、「世界観」と「イメージ」の完成度に対する評価以上に「映画」として何があるかと問われると、答えに臆してしまうのもまた確かだ。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    台詞に出てくる固有名詞を逐一線対称の一枚絵で見せていく完成版ウェス・アンダーソンのスタイルにはもはや語りもアクションもへったくれもなく、ドールハウスを飾り込むように細部を偏執的に構築することにのみ力が注がれており、ともすると自閉しているように見えなくもないが、この圧倒的な物量と被写体の数々を前にすると、感嘆せざるを得ない。シネフィル文学青年が10作目にして到達したのが、過剰にラグジャラスなTikTokが連なったような断片の映画だったというのは興味深い。

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