殺人鬼から逃げる夜の映画専門家レビュー一覧
殺人鬼から逃げる夜
「リトル・フォレスト 春夏秋冬」のチン・ギジュ主演による新感覚スリラー。連続殺人事件を目撃してしまった耳の聞こえないギョンミ。サイコパスな殺人鬼は、執拗なまでに彼女を追いまわすが、彼女には追手の足音は聞こえず、さらに助けを呼ぶ言葉も届かない。共演は「コンジアム」のウィ・ハジュン、「はちどり」のキル・ヘヨン。監督は本作がデビューとなるクォン・オスン。
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米文学・文化研究
冨塚亮平
主人公親子の「聞こえなさ」と結びついた演出、とりわけ音を視覚化するいくつかの仕掛けは、たとえば「ドント・ブリーズ」シリーズにおける盲目と音の関係をずらしたような斬新なサスペンス感覚をもたらすものとなっているし、星野源に瓜二つの犯人が凶器の一つとしてあえて斧を使うあたりのサービス精神も楽しい。だが、観客の予想を裏切ることだけを意識して組み立てたとしか思えない終盤の展開はあまりにも説得力に欠けており、物語を真面目に追う気が失せてしまった。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
聴覚を持たぬ主人公を見て頭をよぎる、昨今流行りの感覚制限系ホラーかぁという嫌~な予感は、殺人鬼が標的に向かって突如走り出した瞬間に一蹴される。あまりに清々しいその走りっぷりは、殺人に至る動機も原因も豪快に置き去りにし、気づけば主演も助演も三つ巴に入り乱れ、ひたすらに走りまくるシャトルランホラーが開幕する。住宅街から繁華街まで一夜の間で走り続けるミニマルな設定も聡明で、間の抜けた警官から安っぽいエピローグまでなにもかもが素晴らしく狂おしい。
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文筆業
八幡橙
ともに聴覚に障害を持つ娘と母が、連続殺人鬼に追われる一夜の出来事。駐車場、警察署、自宅、狭い坂道に繁華街と、場所と状況を変えて数珠繋ぎの死闘が。時に音を消し主人公のよるべなさを観る者に共有させ、時に騒音や激しい光で静寂を突如切り裂く。恐怖を煽る演出が斬新かつ巧みで、先が読めないギリギリの緊張が続く。手話を操る二人をはじめ俳優陣は一様に達者だが、犯人役ウィ・ハジュンの市井に溶け込む憎らしいまでの擬態ぶりに唸った。新鋭クォン・オスン。その才気に刮目!
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