フォーリング 50年間の想い出の映画専門家レビュー一覧

フォーリング 50年間の想い出

「グリーンブック」の名優ヴィゴ・モーテンセンの初監督作で、出演、脚本、音楽も担当。パイロットのジョンは、パートナーのエリックや養女モニカとロスで暮らしている。ある日、田舎で農場を経営する父ウィリスが認知症を発症し、ジョンのもとにやって来る。出演は、「エイリアン2」のランス・ヘンリクセン、「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」のローラ・リニー。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    息子と父の関係が動き出す山場以降の主演二人は掛け値なしに素晴らしく、なかでも喧嘩から翌朝への流れは、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を彷彿とさせるモーテンセンによる自身の前髪への演出とも相まって鮮やかな静と動のコントラストを成しており白眉。それだけに、多様性の見本市のような息子や娘の家族のあり方が、対極に位置する父親の有害な男性性との衝突をより劇的に演出するための布石としてのみ要請された、わざとらしい設定に見えてしまう点が非常にもったいない。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    認知症が出始めた父は、男尊女卑で差別主義的な傾向をますます強めている。そんなもう老い先短い父の世話をしなければならない息子という親子の物語は、父の態度を許しがたく強烈に描くほど興味深いものになるが、同時に着地がとても難しくなる。映画は断絶も安易な和解も描きはせず、なにかしらの心の交流がなされて終わるが、そうした目に見えぬがどこか通ずる関係によって、一番の被害にあっているともいえる女たちの声と存在はあまりに微かなものとして扱われてしまう。

  • 文筆業

    八幡橙

    ヴィゴ・モーテンセン初監督作は、半自伝だという“困った父”と、その息子の物語。母の死を契機に脚本を書き、主演し、自ら演出にまで挑んだ本気と、さらに父でも自身でもない中空に視点を据えて、登場人物すべてを静かに見つめる立ち位置の揺るぎなさに感服。それは綺麗事じゃなく、一度どんつきを知った人にしか至れぬ境地のように思えた。風のそよぎ、花、寄せては返す波、眩い日の光愛憎を超え、「生」の瞬間を一つ一つ撫でるように慈しむ掌の温度が、余韻となって長く残った。

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