再会の奈良の映画専門家レビュー一覧

再会の奈良

なら国際映画祭が期待の若手映画監督を招き、奈良を舞台に映画を製作するプロジェクト「NARAtive」の最新作。中国残留孤児の「麗華」を探すために来日した養母と、少なからぬ縁で手を貸す若い娘、元警察官の男の旅が、切なくもユーモラスに描かれる。なら国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターであり奈良出身の河瀨直美と、「長江哀歌」「罪の手ざわり」のジャ・ジャンクーがエグゼクティブプロデューサーを務め、中国出身のポンフェイを監督に迎えてオリジナル脚本で製作された。ポンフェイ監督はデビュー作“Underground Fregrance”や「ライスフラワーの香り」がヴェネツィア国際映画祭で評価された新鋭。引退した警察官の一雄を「萌の朱雀」「哭声/コクソン」「MINAMATA-ミナマタ-」などで国際的活躍を見せる國村隼、中国から養女の麗華を探しにきた陳ばあちゃんに「妻の愛、娘の時」のウー・イエンシュー、中国残留孤児の娘で孤独を抱えて生きるシャオザーに注目の若手女優イン・ズー、物語の鍵を握る人物として永瀬正敏など、日中を代表する実力派俳優が顔を揃えた。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    日本に帰国し行方不明になった中国残留孤児を探す養母。結局、何も解決しないまま映画は終わる。それが中国と日本の間に横たわる戦争の傷痕(侵略と加害)が何も解決していないことを示す。水俣病だけではない。この国は自国の黒歴史を外国の手を借りなければ描けないのか。情けないし悔しい。役者も撮影も素晴らしい。ただテーマを別にすれば、このレベルの映画は昔はいくらでもあった。どこかで映画と歴史と社会と現実に真剣に向き合わないと、この国の映画は本当に終わってしまう。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    中国残留孤児が日本に帰ってきたものの、探し求める肉親とは出会えず、生活は苦しく、かえって不幸になる。日本人にとっては苦い物語だ。でもこれが戦争と戦後の現実であり、目を背けてはならない。日本人が避けて通りがちな主題に、果敢に挑んだ中国人監督に敬意を表したい。ただ残念ながら、日本の描き方にリアリティーが乏しい。セリフは生硬で、芝居も不自然だ。頭で考えたシナリオを、実際の場所と生の身体でどう具現化するか。この種の国際共同制作の難しさを考えさせられた。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    終戦から遠ざかるにつれ、風化しつつある中国残留孤児という深刻な主題に、過去と現在が共存する趣豊かな古都を舞台に、改めて光を当てる。不思議な縁が結ぶ日中混成トリオが、それぞれの母国語や書き言葉、ユーモラスなジェスチャーも駆使して失踪人探しに奔走する数日間を通し、ふたつの国に翻弄された女性の悲痛な半生が浮き彫りにされるとともに、血のつながりや国境を越えた人情の美しさも印象に残る。唐突なテレサ・テンでダメを押す幕切れには、少々面食らったけれど。

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