マイスモールランドの映画専門家レビュー一覧

マイスモールランド

差別や迫害から故郷を逃れ日本で育ったクルド人少女を描き、第72回ベルリン国際映画祭アムネスティ国際映画賞・特別表彰を授与された人間ドラマ。クルド人サーリャは同世代の日本人と同様にごく普通の高校生活を送っていたが、ある日突然在留資格を失い……。監督は、早稲田大学在学中に制作した「circle」が東京学生映画祭準グランプリに輝き、是枝裕和監督率いる映像制作者集団『分福』に所属する川和田恵真。サーリャを5カ国のマルチルーツを持つモデルの嵐莉菜が演じ、難民として認められた例がこれまでないに等しくいつ強制退去させられるかわからない在日クルド人の葛藤を映し出す。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    ドキュメンタリーに任せっきりだった難民問題をフィクションが描く。現実を見せる前半、やはり総花的にならざるを得ないのかと危惧していると、クルド人父の難民申請却下→入管収監から一気に密度が増す。ビザがないことがひとりの少女からいかに多くを奪っていくか。少女の顔が変わっていく。ラストの強い眼差しがテロリスト誕生にも見える皮肉。嵐莉菜がいい。「東京クルド」や「牛久」を観た人も観てない人も観よ。描くべきものはそこかしこに転がっている。映画人よ、顔を上げろ。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    難民申請が不認定となったため、目指す大学への進学ができず、アルバイトをクビになり、県境を流れる川の対岸の恋人にも会えない。日本で育ったクルド人女子高校生が直面する困難を通して、入管政策の不条理をあぶりだす。同時にそのアイデンティティの揺れから、この国の排他性そのものに迫る。主人公が感じるさまざまなギャップを、荒川にかかる大きな橋とコンクリートの橋げたによって視覚的に表現したのが素晴らしい。ミックスルーツの川和田監督の真情がストレートに伝わる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    難民問題を扱うドキュメンタリーも増加中だが、フィクションだから描けることもあるとは思う。本作では、同年代の青年との淡い恋を通し、在留資格を失う“仮放免”の心もとなさを、埼玉と東京の県境を国境さながらに見立てて映すが、その割に、気安く双方を行き来して見えるのが難。むしろ、日本語しか話せぬ妹との微妙な距離や、クルド人に誇りを抱く父の意に反し、友人にも国籍を偽ってしまう罪悪感など、主人公の家庭内に、もっと深く探究すべき要素があったのではないか。

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