ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイの映画専門家レビュー一覧

ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ

不世出の天才シンガー、ビリー・ホリデイとアメリカ合衆国の知られざる対決を描いた伝記ドラマ。1947年、ビリー・ホリデイの歌『奇妙な果実』が、「公民権運動を煽る」と危険視した連邦麻薬取締局のアンスリンガー長官は、彼女に罠を仕掛けてくるが……。ビリー・ホリデイに扮したのは、人気歌手のアンドラ・デイ。本作で演技初挑戦ながら、ゴールデン・グローブ賞女優賞(ドラマ部門)に輝いた。監督は「プレシャス」でアカデミー賞監督賞にノミネートされたリー・ダニエルズ。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    〈ストレンジ・フルーツ〉を軸にした構成や、忌まわしい記憶の回想場面をドラッグ服用時の幻覚と結びつける発想が印象的なスーザン=ロリ・パークスの脚本をはじめ、アンドラ・デイの抜擢やプラダの起用に至るまで、伝記の要素を含みつつも、あくまでもBLM以降の視点からビリー・ホリデイを現在進行形で再評価しようとする意欲に満ちている。未発表の伝記を元にした近年の「ビリー」と比較しても、とりわけ彼女を知らない若い世代の観客の多くにとって、より琴線に触れる一本だろう。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    公民権運動を扇動するとして国が歌うことを禁じた〈奇妙な果実〉。この曲がいつどのように歌われるのかが本作最大のポイントだろう。〈奇妙な果実〉を歌ったことで、社会がどう動いたのかを映さなければ、この歌を取り締まる理由、そしてビリー・ホリデイはなぜ歌わなければならないのかが描けないのではないか。しかしこの映画は、社会的な側面や観衆の反応よりもビリー・ホリデイと連邦捜査官側との対決を描くことを選ぶ。確かに対決模様は面白いがその選択は良いのかどうか。

  • 文筆業

    八幡橙

    本人が憑依したかのような、初演技とは思えぬアンドラ・デイの凄味と、彼女の歌う〈奇妙な果実〉は確かに圧巻。タイトル通り、72年のダイアナ・ロス版では描かれなかった、公民権運動初期のアイコンとしてのビリーに焦点を絞った、現代的視点に基づく映画だ。テーマありきな分、酒や薬に溺れ、男たちに搾取され、連邦麻薬局が執拗に仕掛ける罠とも闘い続ける痛々しさが際立ち、自身から迸る思いや歌への情熱=人間らしい魅力が霞んだ面も。ドラマから歌に流れる動線は、旧作に軍配。

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