マイ・ニューヨーク・ダイアリーの映画専門家レビュー一覧

マイ・ニューヨーク・ダイアリー

1990年代のニューヨークを舞台に、社会人1年生となった女性が理想と現実の間で揺れ動く姿を瑞々しくユーモアたっぷりに描いた、大人のための青春映画。作家志望のジョアンナはJ.D.サリンジャーをクライアントにもつ出版エージェントで働き始め、進むべき道を模索する。原作は本が生まれる現場を印象的に綴ったジョアンナ・ラコフの自叙伝『サリンジャーと過ごした日々』。サリンジャー担当の女性ベテランエージェントと新人アシスタントの〈知られざる実話〉を描き、謎多き隠遁作家に届く無数の“ファンレター”が物語を鮮やかに彩る。ジョアンナを演じるのは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のマーガレット・クアリー。上司のマーガレット役は「エイリアン」や「ワーキング・ガール」のシガニー・ウィーバー。監督は「ぼくたちのムッシュ・ラザール」「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」などヒューマンドラマの名手フィリップ・ファラルドー。
  • 映画評論家

    上島春彦

    現代文学のカリスマと言えばサリンジャーをおいて他にない。本作は彼の意外と気さくな側面がユーモラスに描かれ楽しめる。とはいえ「意外」っていうのはエージェントが読者を欺いて作り上げたイメージに基づいている。そこを暴くのも本作の眼目。本来シヴィアな企画(のはず)なのだ。ところが原作者(主人公のモデル)に配慮して作りが甘い。上司や先輩を蹴落としてのし上がりました、という主人公のあり方をなるべく曖昧にしてある。それゆえ、画面は凝っているが★は伸びない。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    サリンジャーの姿はほぼ映さず、その場にいないはずのサリンジャー宛の手紙を書いたファンの姿は映される。そこに、映すところは映し映さないところは映さないという作り手なりの美学が浮かび上がる。主演のジョアンナ役のマーガレット・クアリーが踊り始めた瞬間、彼女の身体性は彼女がバレエダンサーでもあったのだと語り出し、それも一種の仕掛けのようになっている。このように、サリンジャーを扱う映画は定期的に世に出されるが、本作はささやかで洒脱なマジックに満ちている。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    結局は全部モノローグで自己完結してるじゃん、ていうかヒロインはせめてサリンジャー読んでから代理人気どろうよというツッコミは野暮か。全篇通じて丁寧に演出されてはいるものの、映画的に突出した見せ場があるわけでも、持ち帰りたくなる逸話があるわけでもない本作は、よくある野心溢れるキャラクターによる業界サクセスものである。それでも、マーガレット・クアリーのお母さま譲りの深遠な瞳と、誰もが大好きサリンジャーの固有名詞に支えられ、悪くはない余韻が残る。

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