帰らない日曜日の映画専門家レビュー一覧

帰らない日曜日

カズオ・イシグロが絶賛したグレアム・スウィフトの小説『マザリング・サンデー』を「キャロル」のプロデューサーが映画化。第一次世界大戦後のイギリスを舞台に、天涯孤独のメイドの人生を一変させた<秘密の恋>が、やがて小説家となる彼女自身の回想によって展開する。「バハールの涙」のエヴァ・ユッソン監督が抜擢され、オーストラリア出身の新星女優、オデッサ・ヤングと、大人気ドラマ『ザ・クラウン』で各賞を席巻した英国俳優、ジョシュ・オコナーが主演を務めた。また、オスカー俳優のコリン・ファースとオリヴィア・コールマンがアリス・バーチの脚本に惚れこんで出演を快諾。カンヌ国際映画祭ほか世界中の映画祭にて上映された、美しいラブストーリー。
  • 映画評論家

    上島春彦

    想い出の内部から湧き上がるような白い煙の色彩と、主人公の若い日の口紅の赤の効果が素晴らしい。その赤は、ある事件でのショックからキッチンにうずくまる彼女の蒼ざめた唇との鮮やかなコントラストを形作る要素でもある。全裸でお屋敷を歩き回るうちに主人公が書斎に入り込むシーンも映画史に残る。意図的に説話を雑然と構成しているので説明は避けるが、見りゃ分かるよ。要は二つの過去を思い出す現在(それも過去だが)の作家という見取り図。原題は「母の日」のことだね。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    ファーストショットで浮き上がってくる大きな瞳に観客を引きずり込み、すぐさま「むかしむかし」と女の語りが始まる。続く男の語りではカメラが口のみを映し出すゆえに、その開巻は女の物語が口で話す物語ではなく見て書く物語なのだと告げる。さらにその瞳はオリヴィア・コールマンの持つ正気のない虚な瞳にも接続され、映画は瞳が語る物語である姿勢を崩さない。地に足のついた作家としての成熟した人生と一糸纏わぬ姿で彷徨する幼き頃の人生それぞれに見合った撮影も美しい。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    夢と現実のあわいに存在するかすみがかった薄紅色の時間を切り取ったかのような、何とも美しいフィルムだ。南アフリカ出身の新鋭キャメラマン、ジェイミー・D・ラムジーによる撮影は創意と工夫に溢れていて、ヒロインであるオデッサ・ヤングに彼が向けたまなざしからは親愛と官能が色濃く漂う。だが、決して美しいだけの作品ではない。どこか遠くで起きていて現実感を欠く戦争と、どこまで行っても平凡な己の日常との対比はまさに現在に生きるわれわれが抱く時代意識であろう。

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