さよなら、ベルリン またはファビアンの選択についての映画専門家レビュー一覧

さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について

『飛ぶ教室』などで知られる児童文学の大家エーリヒ・ケストナー唯一の大人向け長編小説を映画化。1931年、作家を志しベルリンへやってきたファビアン。だが彼は自分がどこへ行くべきか惑い、立ち尽くす。そんななか、女優を夢見るコルネリアと出会い、恋に落ちる。出演は「ある画家の数奇な運命」のトム・シリング、「さよなら、アドルフ」のザスキア・ローゼンダール。監督は、本作が本邦初公開作となるドイツの名匠ドミニク・グラフ。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    現代から過去へと移動する冒頭の魔術的なショットをはじめ、分割画面やPOVショット、モノクロのアーカイブ映像、スーパー8を用いた場面など、それぞれ質感の異なる映像をごった煮的に提示する演出は、当時のベルリンの狂騒を表現するにあたって一定の効果を上げているだろう。ワイマール共和国を描いた現代独文学の映像化という点では「ベルリン・アレクサンダー広場」の混沌を彷彿とさせつつ、恋や夢を追い絶望する若き三人を軸に据えることで、青春映画としても成立させている。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    猥雑な自由さと欲望が渦巻きながら開放的とは言いがたい、躁と鬱が混在する1931年のベルリン。ナチズムの足音も聞こえはじめる澱んだ雰囲気を、ニュース映像や8㎜映像などを交えた画面、そして雑然かつ軽妙な編集などによって見事に表現している。しかしそういった撮影や政治的な視点より何よりも感動的なのは、主演二人の碧眼の美しさやベルリンの澱んだ空気から一変、ドレスデンの実に澄んだ風が室内を通り抜けてフワリと揺れる室内のカーテンの軽やかさだったりする。

  • 文筆業

    八幡橙

    原作の古さも今年70歳のグラフ監督の齢も感じさせぬ渦巻く水流の如き冒頭は、まさに“大人の飛び出す絵本”。児童書とはかけ離れたケストナーの原作は、世界恐慌二年後にしてヒトラーが政権を握る二年前のどこか狂った不穏な時代がアイロニカルかつ愛ある視点で綴られており、映画にもそのエッセンスが随所に。原題の副題で、作者が希望するも出版社に却下されたという当初の書名は『犬どもの前に行く』(=破滅する)。破滅が見える終局のあっけない演出も原作のまま、鮮やかで切ない!

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