なまずの映画専門家レビュー一覧

なまず

カラフルで遊び心いっぱいの映像、ニュートロなビジュアルに、貧乏なカップルが交わす若さゆえの痛い会話とブラックユーモアたっぷりの物語が反響を呼び、韓国で異例のロングランヒットを記録した新感覚恋愛映画。2019年大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞。単なる恋愛劇ではなく、「なまず」「シンクホール」「ゴリラ」など、一度観ただけでは回収不能な謎が満載で、本国でもリピーターが続出した。本作で長編監督デビューを果たしたのは、韓国映画アカデミーを卒業後、「フライ・トゥ・ザ・スカイ」(15年)などの短編映画を演出してきたイ・オクソプ。主演は「野球少女」(20)の主演でブレイク、是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」(22)にも出演しているイ・ジュヨン。病院で起こった恥ずかしいレントゲン写真の被写体と疑われる看護師ユニョンを演じている。ユニョンの彼氏ソンウォンを「新感染半島 ファイナル・ステージ」のク・ギョファンが演じ、本作の製作・脚本・編集も務め、マルチな才能を見せている。また、副院長ギョンジンを「オアシス」のムン・ソリが演じるなど、個性的な面々が集結した。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    「信じること」をめぐるテーマの処理についてはやや納得いかない部分もあるものの、わかりやすすぎるぐらいの隠喩やエピソードをいくつも用いて社会風刺を行っているにもかかわらず、全篇がなんともいえない奇妙なユーモアに貫かれていることで、いやらしさとは無縁のきわめて抜けの良いポップでオリジナルな感覚に溢れたコメディとして成立している。なぜこの俳優がこの役を、と思わなくもない豪華キャスト陣起用の意外性も、小ネタの不思議な味と相まっていずれも効果的。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    ユニークな世界観と人物たちによるクウォーキーな映画では、彼らを愛おしく思ってしまう、風変わりな細かい描写が重要になってくるだろう。その点で乗れないところが多々あった。例えば、主人公が勤める病院のタイムカードは、なぜかロイター板が必要なほど高いところに設置されている。そのうえで、それをわざわざ後ろ向きで押そうとする変わった場面があるのだが、そのアクロバティックな行動をきちんと見せずにカットを割って処理をする。本作のそういった選択は支持できない。

  • 文筆業

    八幡橙

    新しいようでどこか懐かしくもある不可思議さ。約40年前初めて「家族ゲーム」を観た日を思い出す。レントゲン写真(局部)、シンクホール、ローランドゴリラ、足の指に嵌る指輪、病室で飼われるなまず……。人を信じることの難儀さを、乾いた風景と笑い、さらに底にそっと敷かれた不気味さと共に描いた意欲作。「もし、あなたなら?6つの視線」同様、国家人権委員会の企画とのことで、キャストも意外なほど豪華だ。イ・オクソプ×ク・ギョファンがもたらす風に、今後も刮目したい。

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