オルガの翼の映画専門家レビュー一覧

オルガの翼

2013年のユーロマイダン革命を機に、生きるために故郷のウクライナを去り、スイスに渡った15歳のオルガが、体操選手としての夢と祖国への愛の間でもがきながら自らの運命を切り開いていく物語。1994年生まれ、スイス出身の新鋭エリ・グラップ監督の初長編監督作。マイダン・デモ参加者が実際に現地キーウで撮影した映像を使用するなど、圧倒的な緊張感でいま知るべき事実が映し出される。主人公のオルガを演じるアナスタシア・ブジャシキナは、2001年ルハンシク生まれの欧州選手権出場歴もある本物のアスリート。そのほかの選手もプロのアスリートを起用し、少女たちの呼吸や情熱、繊細な表情、肉体の躍動感までを見事に映し出す。フランス・スイス・ウクライナ合作。2021年第74回カンヌ国際映画祭の「批評家週間」にて、エリ・グラップ監督と共同脚本のラファエル・デプレシャンが、本作の脚本で「SACD AWARD」を受賞した。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    倒立する少年少女を捉えた最初のカットで高まった期待は最後まで裏切られず。国家に翻弄される若者たちの青春を体操の団体競技に託して描くことで、スケールの壮大さと尺のタイトさを見事に両立させている。同僚やライバルとの争いや交流を描いたスポ根ものとしての良質さが基盤にあるからこそ、爽やかな結末を阻害する、独立をめぐるもう一つの戦いの重みがより痛切に伝わってくる。独立広場のスマホ映像と拮抗させるため、実際のアスリートたちの身体を召喚した選択にも膝打ち。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    激化していくウクライナ・キーウのユーロマイダン革命と体操のオリンピック。一方は激情と喧騒の世界であり、もう一方は、心身をコントロールしなければならない、静寂の世界として演出されている。そんな正反対の世界のちょうど真ん中に投げ込まれた15歳の少女の身体は、鉄棒という具体的なアイテムを通して、文字通り常に揺れ続ける。どんなに綺麗な着地を決めても、消えることのない痛みを抱える彼女を通して、国や市民や政治といった複雑な関係性を体感することになる。

  • 文筆業

    八幡橙

    孤独の淵で15歳のオルガが感じる故郷の行く末への不安、渦中で闘う母や親しい友人との広がる距離に、募りゆく疎外感――。言葉も通じぬ異国で少女が抱える究極のよるべなさが、観る者の胸にもしんしんと降り積もる。演技は初めてだというアナスタシア・ブジャシキナの基本むすっとしつつ、時に笑い転げ、時に涙を抑えきれない生きた顔に、ただただ見入った。映画が終わっても戦争は続き、同じ痛みは国境を越えて存在する。対岸の火事で済まされぬオルガの憂い、今なお拭えず。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事