ひとりぼっちじゃないの映画専門家レビュー一覧

ひとりぼっちじゃない

「世界の中心で、愛をさけぶ」「スカイ・クロウ」などの脚本家・伊藤ちひろが10年の歳月をかけて書き上げた小説を自ら映画化した初監督作品。主人公の歯科医師ススメのなんの変哲もない日常が、アロマ店を経営する宮子に恋をすることで少しづつ変化を帯びていく。ススメ役は伊藤が脚本を書く際にアテ書きしたというKing Gnuのボーカル&キーボード、井口理。宮子役には「恋は光」の馬場ふみか。宮子の友人の蓉子に「PLAN 75」の河合優実。恋愛という世界の中ですら、他者と自己は一つになれないのか。恋愛の歯がゆさを含んだ幸福、不安と嫉妬に葛藤しながら、ススメがたどり着く“生きること”とは……。 不器用なススメの、ナナメでまっすぐな、純愛と狂気の物語。企画・プロデュースは行定勲。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    自身の原作を自身の脚本で監督する。脚色は原作に縛られ、演出は脚本に縛られなかったか。そうとしか考えられない無惨さ。現実と幻想の境界の曖昧さを、自分が見ている時以外の相手は分からないと言い訳しないでキッチリと描くべき。「ツィゴイネルワイゼン」はそれをやっているから傑作なのだ。水中で吐き出す空気の効果音では何も表現出来ない。行定さんは何も言わなかったのか。一人三役だからこそちゃんとした外部の批判と指針が必要なのに。好きにやれは優しさでも何でもない。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    出会った女に導かれるように、男が自分探しの迷宮へと入り込む。よくある筋立てを具体的な強い画で見せようとしているのはわかる。他人の口腔内をのぞく歯科医の双眼ルーペといい、まるで温室のように観葉植物が生い茂る部屋といい、カギのかかっていない突き当りのドアといい、ベランダの錆びた物置といい。ふわふわとして謎めいた馬場ふみかとは対照的に、現実を直球で突き付ける河合優実の存在感も貴重だ。ただ才気走った画に人物の心理がついていかないうらみがある。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    来る者は拒まぬ彼女の思わせぶりで引っ張るが、尺は延び疑問符ばかり増える。彼女を作品のモチーフにするなど、ただならぬ関係と思しき親友の参戦が、第二、第三の男の影を匂わせ、さらに事態を厄介にする。互いに分かり合えぬ恋愛の不可思議を、自身さえ掴みあぐねる主人公の目線に徹して紐解く意図は分かるが、彼が惹かれる彼女の特別さを表現しきれていないからか、次第に常軌を逸する彼の行動も、心のつながりを求める愛よりは即物的な執着の産物に見え、情感まで半減した印象も。

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